日本の前回の生物多様性総合評価(2010)にはほとんど記述がなく、JBO2(2016)には自給率やエコロジカルフットプリントの海外依存度の形で記述されていたが、日本が海外の生物多様性に及ぼす影響も考慮すべきだ。窒素フットプリント(Oitaら2016)、木材輸入による鳥類の絶滅リスク(Nishijimaら2016)に続き、より包括的な影響評価が出ました(Kanemotoら2023)。今後、TNFDなどの勘定の際にも考慮されることになるだろう。
マサバ太平洋系群はようやく乱獲状態を脱したのか?
以下のマサバ太平洋系群の資源評価を拝見しました。
https://abchan.fra.go.jp/wpt/wp-content/uploads/2022/simple_2022_05.pdf
以前は2010年代もBmsy以下、Fmsy以上と評価されていました*1。それでも資源は順調に増加していた。ようやく、過去に遡ってFmsy以上という認識は改められたが、Bmsyを超えたのはごく最近という評価ですね。
私は信じません。2010年代には、マサバ資源は十分利用できる水準にあったはずです。むしろ、もっと有効に利用すべきだったとすれば、資源評価はその機会を妨げた可能性があるでしょう。
計算に最善を尽くされていると思いますが、自身の分析【に用いた前提条件】が正しいと過信しないことを勧めます。
備忘録:産総研第7事業所 アクセス
定年退職と再雇用の挨拶
私事で恐縮ですが、2023年3月末をもちまして定年を迎え横浜国立大学大学院を退職することとなりました。 20年間横浜国大にお世話になりました。Global COE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」、日本生態学会長、ユネスコチェア「生物圏保存地域を活用した持続可能な社会のための教育」を初め、生態リスク学の普及発展に努める機会をいただきました。私を導き、支えていただいた多くの皆様に心から感謝します。新年度からは、横浜国立大学学長特任補佐・総合学術高等研究院として、ユネスコチェアと生物圏科学研究群(仮称)の活動に取り組みます。5月13日に最終講義を行います。皆様の来聴をお待ち申し上げます。
2023年3月末日 松田裕之
海洋政策学会有志の次期生物多様性国家戦略に関する意見書 (風力発電)
次期生物多様性国家戦略に関する意見書
2022 年 5 月 31 日
・2050 年のカーボンニュートラル社会の達成にむけ、海域の積極的な利用が必要である。沿岸域のアマモ場・藻場・マングローブ林などによる二酸化炭素の吸収固定(ブルーカーボン)は、生物多様性保全の観点からも価値が高い。洋上風力発電も、計画立案段階からの戦略的環境評価(SEA)および事後的科学モニタリングを行うことにより、多様なベネフィットの持続的創出に寄与できる。(P3)
・海洋は陸上に比べて風況が好適であるため、自然再生エネルギーを活用する有望な手段として、洋上風力発電が今後一層重要となる(木下 2019)。バードストライクや海流の変化など、環境・生態系への影響は不可避であるが、気候変動対策としての大きな可能性を考慮し、生態系への影響を可能な限り少なくしたうえで、洋上風力発電を展開することができるよう、施策を策定する必要がある。特に、洋上風力発電事業が行われる海域や施設は、炭素吸収を目的とした大規模な海藻養殖や海洋性レクリエーション・教育等への活用等、多様なベネフィットの持続的創出が可能であり、また、禁漁区あるいは保護区の併設も検討できる。様々な利害関係の調整と組合せには上述の MSP が有効であるが、さらに計画立案段階から戦略的環境評価(SEA)を行うことも重要である(中田 2022)。発電設備の設置後も科学的モニタリングと評価が行われ、海洋生物多様性へ与えるプラスの影響が明らかになれば、OECM と位置付け得る可能性にも留意すべきである。(P8)
(以上)
ゼニガタアザラシの被害対策は成功しているか?
ゼニガタアザラシ被害対策の記事。科学委員会資料で出た被害額の表をグラフにして、対策が成功していると読めます。褒めてくれたことはありがたいが、我々はそこまで楽観していません。
科学委員会で示された図は被害割合の推移です。漁獲量が激減して、漁民は困っている。2016年17年も漁獲量が減り、被害が減らず、被害割合が増えた。今回は被害割合増加は避けられたが、管理計画初期から被害割合が大きく改善しているとはいいがたい。これではまだ成功とは言えません。 アザラシを捕獲して、2割減らす目標を立てた。その間に被害対策手法を開発し、漁業とアザラシの共存の道を探るつもりでした。そろそろ2割減少に近づいているが、まだ被害対策が確立していません。絶滅リスクを避けるうえで、2割以上減らしてはいけないとは限りませんが、いつまでも減らし続けるわけにはいきません。共存の道はまだこれからです。