中西準子さんの新たな裁判とは

今年になって、中西準子さんが名誉毀損で訴えられたと聞いた。訴えたのは京大の松井三郎さん、その原告弁護人は、去年東大文学部の講義で私が一緒になった中下裕子さんだ。そのときには金子勝さん、鬼頭秀一さんも一緒だった。 中西さんがHPを取り下げたということなので、何が書かれていたか知らないが,本来なら松井さんと中西さんが直接話し合い、謝罪すべき点があれば本人に直接謝罪するとともにHP上で説明すればすむ問題だと思う。
中下さんの主張を見ると、

  1. 慰謝料および弁護士費用として金330万円の支払い
  2. 中西準子のホームページ」への謝罪文の掲載
  3. 日本内分泌攪乱化学物質学会発行のニュースレター「EndocrineDisrupter NEWS LETTER」に謝罪広告の掲載

を求めている。ことの経緯は

  1. 環境省主催の「第7回内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」(平成16年12月15日〜17日、名古屋市で開催)において松井さんが発言した内容について、座長をしていた中西さんのHP雑感2004.12.24付けで、松井氏が、①「環境ホルモン問題は終わった、次はナノ粒子問題だ」というような発言をした。②新聞記事のスライドを見せたが、原論文も読まずに記事をそのまま紹介した旨の記述をしたことが名誉既存に当たる。
  2. 抗議を受けて、中西氏は2005年年1月20日にこの記事を削除した。しかし、松井氏に対する名誉回復措置は何ら講じられていないとして、3月16日付で提訴した。
  3. 中西さんのサイトによると、2005年3月13日、松井さんに「あと1週間程度でお返事申しあげることができると思います」とmailを出したところ、15日に「提訴準備中」というお返事があり、ひどくびっくりした次第。そして、提訴は16日だったらしい。

提訴にいたった理由として、中下弁護士は下記のようにHPで述べている。

  1. 批判そのものが悪いというのではない。【中略】本件のように、碌に他者の発言も聞かず、事実も確認せず、一方的に他者の名誉を毀損するような決めつけを行うことは、「科学者」の名に値しない行為である。ましてや、中西氏は単なる一科学者ではない。【中略】本件行為は、そのような立場にある者の言動として、看過できないものである。
  2. さらに、中西氏は、「環境ホルモン問題は終わった」と考えておられるようであるが、これは大変な間違いである。【中略】中西氏のように、国の科学技術のあり方を決定する立場の人が、そのような誤った認識を持ち、その結果、国が政策決定を誤ることになれば、国民の健康や生態系に取り返しのつかない事態も招来しかねない。【中略】松井氏は、研究者として、国民の一人として、中西氏のこのような誤りを断じて見過ごすことはできないものと考え、貴重な研究時間を割いて、敢えて本件提訴に踏み切ったのである。

 さて、これは裁判に訴えるべきものだろうか。

  1. 中西さんはすでに問題の雑感を取り下げ、そのことを読者に謝罪している。また、本人にも謝罪すべき点については、その時点でもう一度謝罪すると明言している。本人同士でよく話し合わないうちに裁判に訴えたとすれば、少し性急過ぎるのではないか。謝罪文を載せてからだいぶたって提訴しているのだから、その間、もっと話し合えばよいと思う。上記訴状にもあるように、”碌に他者の発言も聞かず、事実も確認せず、一方的に他者の名誉を毀損するような決めつけを行う”ことは好ましくない。中西さんが謝罪の意思があり、話し合う用意があるという中で、なぜ話し合う前に提訴する必要があるのか。
  2. 2番目の理由は、要するに中西氏の主張が気に食わないというものである。これは学会内部で議論すべきことであり、学者が裁判官の判断を仰ぐ問題ではない。学会で議論すべき問題だろう。「環境ホルモン問題は終わった」と中西さんがどこかで言ったのだろうか?、渡辺正林俊郎著(日本評論社刊)「ダイオキシン」と藤森照信さんの書評を紹介する形で、「ダイオキシン騒動は終わった」とは明言している(雑感212-2003.3.17、雑感213-2003.3.25)。ここに書かれていることが、間違いとは思わない。

このような事実関係から見て、裁判に訴えることで、松井さんの学者としての評判が上がるとは、私には思えない。