有識者委員会処世術道場(3)何を得るかを明確に

Date: Mon, 2 Jul 2007 21:16:10 +0900
 次は委員会で何を勝ち取るかの中身の話です。これ次第で、委員会の価値が決まります。諮問元が敷いたレールを進むだけなら、誰が委員でも同じです。私は以下の5点のように努めています。

  1. 質問内容は、原則として事前に知らせる:どんな意見をもち、どんな質問をするかが事前に念頭にある場合には、事務方に事前に説明したほうがよいでしょう。そのほうが、相手も十分検討した上で回答するはずです(例3)
  2. 対案を示して議論する:原案の文言などを批判する場合、どう直せという対案がなければ、具体的な要求にはなりません。崇高な理念も、具体的な提案と結びつかなければ実現しないのです。(必須事項)以下は状況(勝算)に応じて使い分けています。
  3. 獲得目標を絞って発言する:できもしないことを要求しても実りはありません。委員会で合意して、諮問元が実行できることを提案することがたいせつです。これは委員会の多数意見を実現する場合に重要です。(例1)
  4. 将来問題が大きくなったときの布石を打つ発言をする:まだ専門家の危機感が行政などに認識されない場合、近未来の深刻な事態を予測して指摘し、そのような場合には対策が必要だという議論を行えば、将来の見直しにつながります(例2)。
  5. 事実関係を確認し、言質を取って議事録に残す:生態学者が一人だけしかいない委員会などでは、委員の多数派と私の意見が異なる場合もあります。しかし、事実や論理は多寡に関係ありません。議事録に残せば、将来の世論喚起、方針転換に役立ちます。(例3)

例1:今日の知床世界遺産科学委員会鹿部会の議論では、「陸の孤島」知床岬の自然植生保全のために鹿の大量捕獲を提案した際に、実行計画で原則として捕殺個体を搬出するという現行法令の解釈が議論になりました。生態系の物質循環を考えた場合、むしろ放置するのが自然であり、膨大な労力と費用をかけて無理に搬出する必要はないというのが委員の一致した意見でしたが、法令については順守せざるを得ません。知床岬などを想定して法令の問題点を環境省本部で議論するよう求めつつ、搬出してでも捕獲することで一致しました。(将来下記サイトに掲載予定)
例2:1998年から始めた北海道のエゾシカ保護管理計画では、2000年まで個体数減少に成功したにもかかわらず、その後個体数は下げ止まり、数値目標を達成できずにいます。目標達成に必要な捕獲数を試算して、それが達成できない場合には国有林内での捕獲などが必要だという認識で合意し、副知事の「非常事態宣言」、翌年からの国有林内狩猟規制緩和につなげました(議事要旨)。
例3:愛知万博通産省環境影響評価検討会では、批判する委員は少数派でした。通産省博覧会国際事務局(BIE)の意向によってこれ以上時間をかけずに評価書をまとめるという説明でしたが、2000年1月19日検討会の場で再度説明を求め、議事要旨に記録を残しました。翌日中日新聞がBIEの批判記事を生々しくスクープし、会場計画の大転換に繋がりました。このときも、事前に質問と回答を議事録に残すよう求めていました(松田の書簡)。