水産資源管理の見直しの動きへの懸念

松田です。【小型クロマグロ捕獲枠の】記事を公開しました。

TACをMSYにという話ですが,いくつか懸念があります。4/26の東大大海研行事でも指摘するつもりです。

  1. ABC算定規則の1系をMSYに基づくか現行の規則であろうが,大した違いは出ないと思います。【むしろ】FmedやFsusに比べ,Fmsyは計算過程での任意性が高い(恣意的に操作されやすい)のではないかと思います。(用語集)。規則1-3は現状追認の恐れがあるので,改善が必要でしょう。(規則1-2に禁漁水準Bbanが設けられていないなどの批判は,策定当初にもしましたが,政府に受け入れる気はないでしょう。このままでは,日本のABC算定規則に【従っていても,依然として】MSC基準を満たす【と認められる】ことは難しいと思います)
  2. いずれにしても,ABC算定方法を改良しても,漁獲量>ABCのままでは回復しないでしょう。漁獲量>ABCで資源が回復していない魚種については,TACを適用し,漁獲量を制限すべきでしょう。(TAC適用魚種の拡大の検討には,ABCとの比較が言及されていない)。これでは何のためにABCを出しているのかわかりませんし,UNCLOSの趣旨である持続可能な利用を行う責任を果たしているとは言えません。むしろ,政府が定めた持続可能性の基準を満たしていないことが明白です。
  3. 重要なのは資源回復目標を一方的に政府や水研が定めるのではなく,漁業者が自ら選択し,合意することです。これは持続可能性の義務といえるでしょう。いつまでも複数のシナリオでABCを提示し続けるとか,毎年BlimitやFtargetの値そのものをいじるというやり方は,順応的管理とは言えません(これも策定当初にも指摘したはずですが)。環境省の特定鳥獣管理計画ならば5年ごとに大きく見直し,その際にはパブリックコメントをかけ,それに基づいて毎年の実行計画を微調整します。このほうが実効性が高いでしょう。「我が国における総合的な水産資源・漁業の管理のあり方」最終報告(2010年)でも合意形成のプロセスを定めるべき(P12)と指摘されています。
  4. この合意の輪には漁業者だけでなく,環境団体なども入れるべきです。前掲書でも「国としての資源管理・生態系保全に係る基本的な考え方を国民・関係者に公表し、合意を形成することが求められる」(P11)と明記しています。