環境影響評価で維管束植物レッドリストの使い方

Date: Thu, 28 Mar 2019 13:14:11 +0900

維管束植物レッドリストですが,先日,ある植物がII類である事業の環境影響評価を実施し,事業者が代償措置として移植したそうです。本当にその必要があるのか,その種について個体数がかなり少なく言われているがもっとあるような気がするという質問を受けました。
以下のサイトにレッドデータブックの最新版があります
https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/env

和名検索すると情報と判定根拠が得られます。
分類群により情報の詳細さ,判定基準は微妙に異なります。以下では維管束植物の場合の使い方を紹介します。(ただし,これは環境省が認めた指針ではなく,松田が愛知万博環境影響評価の時に提案し,環境省に採用されなかったものです。維管束植物のレッドリスト判定は,このような個体数別メッシュ数の情報と減少率別メッシュ数の情報に基づいて判定されています*1 。減少率【別メッシュ数】については【上記環境省】サイトには公開していません。また,盗掘などの懸念の少ない種については,分布情報公開サイトでどの地図上にどの植物が分布している【ことが把握されているかが】わかります。

 たとえばシマジタムラソウでは,「現存する株数別の(国土地理院10km)メッシュ数」があり,全部で地図4枚で1000株以上の地図は1枚しかないこと,減少要因は何とも言えない,東海3県のみに分布していて,計算機実験によりE基準でII類(100年後までの絶滅リスクが10%以上)と判定されたことがわかります。

 大きな群生地の限られた一部を「削る」影響は,その事業地の影響評価自身で評価することができるでしょう。地図4枚しかないのに,その【どこか】1枚が丸ごと潰れるとすれば,種全体の【絶滅】リスクを高めるといえるでしょう(この種は愛知万博予定地の海上の森に大群生地があり,跡地利用計画でかなりの影響が出るとされていました。国際博覧会協会から跡地利用計画への批判があり,万博自身の計画が大幅変更,跡地利用計画は中止され,海上の森はほぼ守られました)。

 その上にあるミズトラノオは全国16県の地図26枚分に分布し7都県で絶滅と考えられています。【E基準だけでなく,ACD基準でもII類(100年後までに1000個体以下に減る)と判定されています。】減少要因は土地造成よりもむしろ自然遷移と管理放棄とされています。たとえば小規模生育地が開発されてしまうとして,移植によって代償措置をとる必要があるかといえば,それほどでもないかもしれません。

 このように,同じII類で数千個体といっても,事情はそれなりに異なります。【上記の環境省】のデータベースを上記のような視点で活用されるとよいでしょう。

 

*1:【松田「環境生態学序説」第3章,第10章参照。Matsuda et al.2003 Chemosphere 53: 325-336参照