アクアネット寄稿「生態系アプローチから見た 改正漁業法の意義と課題」

Date: Tue, 23 Apr 2019 12:27:25 +0900

アクアネット2019年4月号】に以下の特集が載りました。【アクアネット】昨年8月号の特集「水産政策改革案への異見と懸念」への異論を寄稿したところ,この特集の一部となりました。
【特集】水産資源と漁業管理をめぐる真否~目標と手段の妥当性~

同じ号の八木信行さんは漁業法改正に賛成だったと思います。この論文の主旨は「日本の漁業は一人負けではない」という一点でしょう。同号に3/26の水産学会「漁業法」シンポジウムの紹介もありました。櫻本さんが相変わらず密度効果を否定しているということですね。ということは,密度効果があるならば(加入量が親魚量と環境に左右されることは疑いない)【彼も意見を変えるでしょう。】逆に言えば,クロマグロのように,加入量が【よほど親魚量が減らない限り,】親魚量に依らず環境だけに左右されるというような再生産曲線【は,密度効果を前提としている】。 

Date: Tue, 23 Apr 2019 15:19:06 +0900

月刊海洋の松田原稿の図1にあるように,密度効果がないという主張は図1下図であって,図1中図(末尾の図右上)ではない。下図を信じる人はかなり少数だと思います。

 密度効果の有無については,もはや国際的に決着がついた議論です。

Date: Tue, 23 Apr 2019 14:41:01 +0900

よくある「日本の漁業は一人負け」というのは,勝川俊雄さんがBLOGOS(2016/8/16)で紹介したのですね。ほかにもたとえば日経ビジネスの2017/8/28記事「独り負けニッポン漁業」のようなFAOの記事と世界銀行の予測ですね。
 たとえば世銀報告書(2013)のxv頁では2008年と2030年予測との比較で,世界全体で31%増加と予測され,中国,インド,東南アジア,中南米などで増産し,EU中東や北米とサハラ以南アフリカは漸増で,日本(とこの表での世界のその他)が減っている。

 八木信行さんがアクアネット2019年4月号の『「日本だけが漁獲減」は本当か?』で指摘しているのは「日本、ドイツ、イタリア、韓国、スペイン、ノルウェーの1950年から2016年」で比較の対象が違う(八木さんの図でもノルウェーは増えている)。
 ほかに増産している国,これから世界規模で増産が予測されているのに(北米EUはそれほどでもない),日本だけが減っていると予測されていることを,上記の統計で否定しても,他にも減っていた国があるという指摘にすぎませんね。
 その八木さんも,だから日本の漁業はこれでよいとは全く言っておりません。「なお、誤解のないように断っておくが、だからといって箪者は漁業資源管理を軽視してよいと述べているのではない。」それだけでは不十分と言っている。この論文の主題は,題名だけを見ると『「日本だけが漁獲減」は本当か?』ですが,いかにも後ろ向きの議論です。次の原稿では,総合的な漁業改革の具体的中身を期待しましょう。

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再生産関係の概念図。密度効果のあるHockey Stick,密度効果によって加入量が親魚量に無関係となる場合,そして密度効果がなく,ばらつくが親魚量が多いほど加入量も多い傾向にある図