COP10 報告

生態リスクCOE各位
 CBDのCOP10は本日が最後です。私にとってはすべての活動が終わりました。簡単に(長文ごめん)報告します。
 27日の菅首相演説で特筆すべきは、生態系サービスという言葉を使わずに「自然の恵み」と表現していたことです。英語ではGift of natureと訳されています。そのほかにも、鶴の折り紙など、日本人にとっての身近な例での説明に勉めていたと思います。COP9では生態系サービス(ES)の経済評価(TEEB)にこだわり、今回もその取組みは進みました。ESは経済価値ばかりではないが、明らかに功利主義的概念です。【】アル・ゴア氏は(気候変動に対する)人間の取組みを「倫理の問題」と言ったと思いますが、経済的にPayしなくても、自然の恵みを次世代に残すという取組みの必要性、切迫性は世界の合意を得られると思います。
 私も主催者に加わった10.28関連集会「環境に優しい漁業への日本の経験と責任」では、名古屋市大の赤嶺さんが「供養」「感謝」という言葉を使いました。【】
 26日のMAB計画委員会共催の副行事では、ユネスコMAB事務局(パリ)のアナ・パーシックさんが文化多様性の重要性を指摘しました。生物多様性は自分の考えを世界標準にする取組みではなく、互いの価値観の違いを認め、生物多様性の持続可能性という世界の目標を定めることが大切です。この会合の最後に、私は「利害関係者が対立しても現場をともに訪れて議論すれば、合意が得られることが多い。まさに生物圏保護区は「自然の学校」である。しかし、COP10では現場を持たない学者と政府代表が議論して対立を解消できないでいる」と言う主旨を述べました。【】教条にとらわれず、現場を見て実践的な解を求めることも、わが【生態リスク】COEの理念です。
 COP10ではUNFCCC(気候変動枠組み条約)のIPCCに匹敵するIPBESを作ります。しかし、これでは締約国間の対立は解消するどころか、却ってこじれるでしょう。科学者が聖職者のように善を語れると誤解している。一つの宗教の信者ばかりならそれでよいが、多様な価値観の合意を図るには、IWC国際捕鯨委員会)やICCAT(大西洋マグロ類保存委員会)の科学委員会のほうが役割が明確です。これらは親捕鯨と反捕鯨、漁獲量を増やしたいものと減らしたいものの対立があり、双方の代弁者の科学者が数字で議論し、合意文書をまとめて総会に勧告します。その勧告を【総会】が無視しているのが問題ですが、科学者どうしが妥協して解を探すと言う役割は明確です。IPCCやIPBESは科学者が一方の側に立っているように見えます。
 20日には反捕鯨論者で有名なSusan Lieberman【】と共演しました。【】先日Pew海洋保全フェローのスペインの会合で初めて会い、「海洋保護区MPAは産卵期のクロマグロだけの禁漁でも良い」と彼女が妥協してきたので、それならば私は一緒にできると答え実現しました。会議後に日本政府もそうかと聞かれたので、MPAの数値目標が(6%でも15%でも)合意されたら、沖合のMPAを作るためにそう動くだろうと見通しを述べました。彼女はその後この副行事の議論を総会の場にInputしているはずです。異なる立場の科学者同士が妥協できる解を探すとはそういうことだと思います。
 24日にはCBD事務局と国連大高等研主催のSustainable Ocean InitiativeというWorkshopで日本の沿岸漁業の長所を日本書紀に載る最古のMPA、生態系管理としての魚付林、自主的海洋保護区の手始めは順応的に小規模から(京都ズワイガニ漁業)、行政・漁業者・研究者が一体となった週代わりのMPA(愛知イカナゴ漁業)、知床世界遺産が示す科学委員会の役割などを紹介しました。【】