コウモリ決議に思う−−学会が行う自然保護活動について

○○さま、Jeconetの皆様

[jeconet:9040] Re: 地下壕に生息する洞窟性コウモリor樹洞性、絶滅危惧
上記のお返事ありがとうございました。お返事遅くなりました。

 なお疑問が残ります。

(松田の)問い 「なぜ、全国版RDB普通種の洞窟性コウモリのために、人工洞窟を保全しなければならないか。」
(○○さんの)答え
1.2.洞窟性コウモリは減少しているか? このことを数量的に明示した研究はない。ただし、たとえば関東地方内では、東京、神奈川、埼玉では、いなくなったという情報が多い。また、茨城は確認個体数が非常に少ない。また、以下のような要因で、少なくとも、戦争中以降は減少傾向にあると考える。

  1. (1)開発による洞窟(自然洞窟と人工洞窟両方)の破壊
  2. (2)自然洞窟の観光洞窟化、また、近年は人工洞窟の観光洞窟化されている。
  3. (3)利用しなくなった人工洞窟の閉鎖
  4. (4)周辺の環境破壊全般

 洞窟性コウモリが減少している数量的証拠がなく、根拠は上記の4点だということですが、それでは、自然洞窟はどの程度減っているのでしょうか?また、観光洞窟化してコウモリなどがすめなくなった洞窟の数(あるいは規模別の数)のデータはありますか?
 ○○さんの話を聞くだけだと、数千の人工洞窟のすべてを守れという必要性が、私には理解できません。他方、すべてを埋めるというのも性急過ぎると思います。もう少し中間的な解があるのではないでしょうか?
 哺乳類学会が守りたい人工洞窟は、実はごく少数なのではないですか?たとえば、あと3年かけて重要な人工洞窟を選定するから、それまで待ってほしいという要望でもよいのではないですか?もとより、人工生息地を守れという主張は、生態学的には言いづらいものです。
 一つの洞窟に1万個体いるといったり、県で数百個体しかいないといったり、この間の議論にどこまで一貫性があるのか、率直に言って、よく理解できません。
 哺乳類学会の大会決議があったということですが、総会に出ないほうが悪いといわれればそれまでですが、私は、現在の各学会の要望書の出し方、決議の使われ方に疑問を感じます。
 要望書を出すときは、匿名の校閲者がついていますか?あるいは、それと反対の意見を持つものに事前に意見を聞いていますか? これらの作業は、原著論文なら当然行うべきことです。責任ある発言に、匿名性はいらないという意見もあるかもしれません。しかし、自然保護の意見書に棹差すのは、原著論文を批判するよりやりづらいことともいえます。
 さらに、大会より前に、会員に周知する一定期間の間、決議案を意見紹介手続き(public comment)にかけるべきではないでしょうか。これは、現在の(内容に不備がある場合も含めた)環境影響評価では必須の手続きです。しばしばそれを批判する側が、学会員の総意を汲む手続きを怠っていては、説得力を欠くと思います。
 同時に、自然保護委員会やアフタケア委員会などの活動は、外部評価にかけるべきです。これは通常の大学や研究所でも普通に行われています。大学の外部評価とは、何かお上が強制した面倒なことと受け止める人もいるかもしれませんが、もともとは、大学の自治を守るために自らの活動を権力と独立して客観的に正当化するために導入された制度だと聞いています。
 public commentの意見を集約して回答するのはたいへんです。すべてを杓子定規にやれというつもりはありませんし、私は行政にも常に求めてはいません。しかし、この作業を行うからこそ、大会決議に重みが生まれ、強い世論が形成されるという側面もあるでしょう。世論の支持を得たいときこそ、この作業を行うべきだと思います。
 コウモリの例では、コウモリ専門家がこの場で誰も異を唱えていないことから、あるいは○○さんの主張は妥当なのかもしれません。しかし、世間に対してわかりやすい、納得できる主張を行うということは重要です。私は、哺乳類学会の昨年の決議がそれを満たしているとは、現時点では思いません。すべての人工洞窟の埋め戻しに反対しているようにも読めます。
 それに、この決議はウェブ上で公表されているのでしょうか?
 皆さんのご意見をお待ちしています。