個体群管理の「歪み」とは

Date: Sun, 10 Dec 2006 09:08:44 +0900
○○様 
 ○○を2000匹捕まえたときいて、そんなにいるのかと思ってしまった。○○さんだから捕まえられるのでしょうが、絶滅危惧の度合いは、昆虫の場合には個体数だけでは評価できないと感じます。たくさんいるが、条件が変わるとあっという間にいなくなることはあるでしょう。1年草でも同じことが言えるでしょうが。 そうなると、個体数よりも、生息地数の減少率で評価するほうがよいかもしれないと思います。すでにその手法を提案していますが、まだ実用化されていない。
 コウノトリの【】指摘は面白かったですね。その際に、やはり単一種の保全に努めると歪みが出るので、群集がいいが、群集はよくわからないから、結局は景観がよいかなんて話になりましたが、 指摘ができるのですから、個体群でも「歪み」は十分補正できると思います。わけのわからない話をするよりも、個体群のほうがはるかにわかりやすいし、バランスも取れます。 個体群でさえ保護運動として歪ませてしまうならば、群集や景観を語ったらもっと歪んでしまうのではないでしょうか。
 保全が運動として「歪められる」という危惧はどこにでもあります。我々「学者」は、単なる批判者ではなく、教育者として解決策を提案し、実現する責任ある助言が必要です。その上で、客観的科学的な評価に努め、「歪み」に注意することが重要です。
 もちろん、群集や景観の話がいらないというつもりはありません。むしろ、それは保護運動ではなくて、生態学者が常に考えるべきことでしょう。群集効果は、注目している個体群にも表れるはずです。 群集とは一つ一つの種の集合であり、種に現れない効果ではないと私は思います。
 たしかに、生態系管理には二つの視点が混在しているように思います。目的として、生態系を保全するという点は一致していると思いますが、

  1. 個体群の維持という目標を定めつつ、それを達成するために種間相互作用など生態系の視点を明示的に考慮するもの (Ecosystem-based population managementで、水産資源管理ではよく論じられる)
  2. 種多様性の維持、水源地の確保など、種に特化しない目標を定めつつ、生息地確保、流路維持など、さまざまな管理手段を用いるもの。手段の中には個体群管理も含まれる。

 実際には、個体群管理と生態系管理の境界はそれほど明確ではありません。たとえば北海道のエゾシカ管理計画は鹿の個体数指数の制御を目標にしていますが、知床のエゾシカ管理計画では自然植生の多様性維持が目的であり、密度操作実験だけでなく、防護柵の設置なども管理手段に含まれます。(具体的な目標が未定という未熟な計画ですが、これは北海道と環境省の違いでしょう。)
 ヤクシカ管理計画私案も同じです。これは生態系管理ではなく、個体群管理だとも言われましたが、私は名前にこだわるつもりはありません。上記の定義で言えば、2に該当します。その手段として、鹿の個体数調節が主要な問題となるでしょうが、生態系管理らしくすることに囚われてそれ以外の手段にこだわることは、解決を遅らせると思います。