カニを食べ残した罪深き私

 「寿司好きの日本人」が世界中の水産資源を食い尽くしているという批判が海外で高まっている。たしかにその通りと思ったこともある。以前、カニ料理をたらふく出されたことがある。私は出されたものは残さず食べるのが礼儀だと思っているが、これは本来は健康によくない。ところがそのときは、とても食べ切れないほどカニがでてきた。その夜は眠れなかった。
 たとえてみれば、兵糧攻めにあって餓死寸前の兵がいる城の中で、馬鹿殿がたらふく飯を食べているのを大河ドラマで見たことがある。あれと同じ気持ちになった。どんなにおいしい料理でも、喜んで食べる気にはとてもならない。しかし、そう考えるのは少数派で、多くの日本人がこのカニを食べに来て、食べ残しているのだ。
 昔、ある先輩に京都の懐石料理屋に連れて行っていただいたときに、板前に怒られるから絶対に残すなと釘を刺された。ありがたくいただいた。カニ尽くしをだすカニ料理屋には、この懐石料理屋の思想はない。料理を出す側も、食べ残されて残念とは思っていないのだろう。
 今、京都のズワイガニ漁業は資源管理の成功例の見本といわれている。京都でカニを食べたことはないが、資源の管理だけでなく、食べるときにも地元では節度を持つほうがよい。私は鮪も鯨もありがたくいただくが、食べ残して環境にやさしいとはとてもいえない。漁獲物の洋上投棄と同じである。