Date: Thu, 20 Mar 2008 14:41:21 +0900
昨日まで日大理工学部で開催された日本船舶海洋工学会シンポジウムhttp://www.ocean.jks.ynu.ac.jp/~oes2008/で、大阪府大の大塚さんら包括的環境影響評価(IMPACT)研究委員会のお招きで講演させていただきました。
IMPACT研究委員会では、さまざまな海洋開発を行うときに、経済、環境、健康の調和を図るためIntegrated Impact Indexという指標を検討されています。それは
III =(EF-BC-αER) + (ΣEF/ΣGDP) (C - B + βHR)
という式で表わされるそうです。ここでEFは当該開発行為によるEcological Footprint、BCはBiocapacity、ERは生態リスク、BCは生物学的環境容量、ERは生態リスク、EFは生態学的足跡、GDPは国内総生産、Cは費用、Bは利益、HRは健康リスクだそうです。右辺第1項は環境負荷、第2項は経済費用を表しています。
これはEFやBCと同じGlobal haという面積で表わされます。そのために金額で表わされる第2項に(ΣEF/ΣGDP)という換算定数をかけるわけです。逆に、貨幣の指数にしたければ(ΣGDP/ΣEF) (EF-BC-αER) + (C - B + βHR)とすればよい。
実際の適用事例として羽田空港拡張計画や神戸空港人工海浜などの事例を伺いましたが、ERとHRのリスクについての換算評価に苦労しているようでした。
今月出版した拙著「生態リスク学入門」に書きましたが、環境負荷の総量を制限するなどの社会的制約を課した上で効用を最大にするには、制約付き最適化の概念がぴったりで、制約を満たすためにそれぞれの環境負荷に「影の価格」がつくのは、理論的に自然に導出されます。私はこれが基本でよいと思っています。上記の係数(ΣGDP/ΣEF) はある意味ではその社会合意ともいえるでしょうが、制約付き最適化理論では、環境負荷の許容限度と実際の負荷がひっ迫するほど負荷排出の「影の価格」が高騰しますが、(ΣGDP/ΣEF) は必ずしもそうならないでしょう。
事例研究をやってみて、リスクの評価が難しいので、これらを省いて
(EF-BC) + (ΣEF/ΣGDP) (C - B ) という指数を検討していると伺いました。事例研究では生態系サービスを直接経済評価してBなどに入れているので、私はそれでもよいと思います(逆にいえば、ERを別に考慮すると二重計算になる恐れがある)。
こうした指標は、事例研究などで皆が定性的に納得できる評価を得るかどうかが大切で、数字を独り歩きさせるべきではありません。上記も計算方法は換算係数などを変えれば指数の値は変わります。おそらく、定性的に納得できる評価の場合はそうした設定変更に対して頑健な結果を得るでしょうし、異論がある評価の場合は設定次第で数字が逆転するでしょう。その程度に役立っていれば、普及していくと思います。
造船や土木などの方々が生態学に関心を示していただくことは大変ありがたいことです。今後とも交流を進めさせていただければ幸いです。