大久保潤・篠原章「沖縄の不都合な真実」(新潮新書)

http://www.ent-mabui.jp/news/4794この本から沖縄米軍基地の「基地反対」運動を「茶番」と評した人がいますが、内容はちょっと違うと思います。単なるゴシップ本ではなさそうです。
 私が辺野古の環境影響評価委員拝命後に聞いた「本音」はほぼここに書いてあります。これでこれらの本音の出典として使えます。ただ、著者らは環境影響に関する科学的紹介はほとんどありません。彼らにとって、自然保護と地域の暮らしは別物(それはその通り)だが、影響があるという部分については単純にしか考えていないようです。他のことでは深く取材しているとすれば、これは不思議です。考えてみれば、原発と自然保護ネタは、専門外の報道人はほとんど受け売りだけで深く追うことをしない。今でこそ捕鯨は反対というだけが良識ではないと国内ではだいぶわかってきたが(これは科学者が言ったせいでなく、WWFジャパンが対話宣言を出したからかもしれない)、これらは我々環境学者の説明不足なのでしょう。
 しかし、沖縄の基地依存を減らすべきだいうのは著者の明確な主張です(212頁など)。基地依存の人々、容認派が多いことも確かだが、移設は軍事的にも有利でなく、日本の税負担でも、沖縄の自立のためにもならないと明言されています。
 成田闘争新左翼もそうですが、彼らと地元反対派の利益はちがいます。それはだいたいこの本に書いてある通りでしょう。辺野古と環境派の関係も同じでしょう。辺野古と言いつつ埋め立て面積を減らせというのは地元の誰の利益にもならないかもしれない。
 最後の沖縄のマスコミ批判も拝読。別に沖縄だけ酷いとは限らないと思いますが、我々は琉球新報に酷い目にあいました。私は同紙の取材はお断りしています。もともと私は報道関係者の取材は条件を付けています。それ以来、そんなに間違いはありません(かなりの確率で、取材者はこれを読んでから私に連絡してきます)
 今から辺野古移設案を見直すのでは今までの苦労がおびただしく無駄になる事は事実です。しかし、それは行動生態学でいうコンコルドの誤りです。今の状態を見る限り、辺野古移設はなお至難です。この本が現知事が変節しないか注目すると言いますが、しても次に新たな反対派が当選するだけでしょう。鳩山元首相は大変な種をまいてしまった。防衛大臣が知事に会わないというのは、防衛省の側に展望がないということでしょう。
 既に、辺野古の事態は私の思惑を超えて動きつつあります。辺野古問題は原発問題と同じで、必要と考えている人には、原発辺野古)以外の解はあり得ません。しかし、ほとんど再稼働できないとなると、別の解を考えねばならなくなるでしょう。