書評 ネコの放し飼いの是非「ネコ・かわいい殺し屋-生態系への影響を科学する」

Peter P. Marra・Chris Santella原著 岡奈理子・山田文雄・塩野﨑和美・石井信夫訳(2019)「ネコ・かわいい殺し屋-生態系への影響を科学する築地書館 定価2592円

 イエネコは「世界の侵略的外来種ワースト100」に入る外来捕食者である(本書35頁)。世界の爬虫類,鳥類,哺乳類の絶滅種238種のうち33種の絶滅の一因か主要因になってきたという(37頁)。イヌと違って,ネコは飼っていても野放しにされていることが多く,野外の餌を飼い主の知らないところで捕食するという。さらに,ネコが媒介する人獣共通感染症トキソプラズマは、妊娠中に女性が初感染すると胎児に重大なリスクをもたらす(133頁)。
 野放しネコが野鳥を捕食するため,愛鳥家と愛猫家で深刻な対立がある(第7章)。絶滅危惧種法では野放しネコが絶滅危惧種を殺した責任が問われうる(151頁)。野放しネコはペットでも有害野生動物でもなく,法律上曖昧な存在である。米国でも野放しネコのTNR(捕獲,不妊去勢,再放逐)が推奨されている(180頁)。しかし,TNRは解決にならないと本書は主張する。ネコに限らず,外来動物を野に放つことは生態系の攪乱要因である。小島嶼部の固有亜種がいる生態系,あるいはもともと類似の天敵がいなかった豪州やニュージーランドでは放し飼いはやめるべきだろう。仮に都市部等での放し飼いを認めるとしても,マイクロチップ挿入を含む飼育許可制とTNRは最低限の現実的な選択肢と感じた。躾不足の飼い犬が隣人に危険なように,放し飼いのネコは野生動物を捕食し,感染症を媒介し得る。躾不足の犬のリスクより見えにくいかもしれないが,むしろ深刻だろう。その場合,半飼育や共同飼育のネコも,責任ある飼い主を明確にすることになるだろう。

PS 日本生態学会ニュースレターNo.49:17-18にも書きました