知床岬携帯電話基地局問題 論点整理 三酔人経綸問答形式

2024年9月10日(火) 9:41

●●先生

けさ、関係者に送ったメールを転送します。ご笑覧いただければ嬉しいです。【】「ソクラテスの弁明」や「論語」のような二人の問答より、3人が良いと思います)。事実を確認しながら議論を進めることが重要でしょう。

 

知床岬携帯電話基地局問題 論点整理

以下のような「三酔人経綸問答」形式で、F漁民、E環境団体、S科学委員会の想定問答案を作りました。 さらなる添削案を歓迎します。

  • E 観光船事故は客の命を粗末にした結果だ。「それと同じに考えてくれるな」と漁業者の方から言うかと思ったが、そうではない。本当に命の問題なのか。
  • F 観光船事故より前から携帯基地局を希望している。
  • S 携帯が通じるようになっても安全操業に努めていただきたい。
  • E 山に入れば不感地域はたくさんあり、野外調査のたびに経験している。その場所も遭難やクマに襲われる危険のある場所もある。農家の水田にもある。海域だけ特別とは言えない。
  • F 知床半島は気象条件の厳しい海域であり、過去には突風により数十人が犠牲となる大惨事が発生しており、近年でも漁業者の危険事例は生じている。特に、1名で操業する船外機船はリスクが高い。不感地帯で100隻以上が操業する可能性があり、緊急時の連絡手段の確保、津波速報等のタイムリーな情報入手は安全確保のために必要。ドコモ(サービスエリア)では、沿岸水面の不感海域が少ないが、知床半島先端東部は約10㎞(要確認)にわたり不感海域であり、小笠原を除けば全国にもない。
  • S 他地域より危険水域が広いなら対策の必要性も説得力がある。多少不便かもしれないが、ニカリウスができれば、現計画でも不感海域は10から3kmに減るだろう。他地域にも不感海域が多々あるauサービスエリア)などのことを考えなければ、岬に建てないという選択肢もあり得るし、その場合のニカリウスの建て方は変わるかもしれない。
  • E 日本生態学会野外調査の安全マニュアル案ではアマ無線や衛星携帯を勧めている
  • F 衛星携帯は荒天時等は電波状況が不安定である。野外調査なら研究室で共有して公費負担が可能だろうが、毎日使う船舶では自己負担が高額である。実際に、経費等の理由で学生に衛星携帯を持たせない例も多々あるのではないか。
  • E スターリンクやワイドスターなどを使えばスマホ自体が使える(ネットアクセスなどは近未来?)。船にアンテナを固定すればよい。車から徒歩で山中に入る野外調査より利便性が高い。不感海域のみで起動するなど工夫すれば、充電切れの心配は少ないだろう。月額2万円は確かに高額だが、生命の値段と自然影響との兼ね合いである。
  • S 統計的生命の価値VSLによると年間死亡リスクが2%、携帯が通じればリスクが半減するとすれば(要確認)、年額24万円の支払いは、VSLが2400万円に相当する。通常死亡リスク回避に対して日本人がかける費用はVSLにして2~6億円程度と言われている(藤見ら2023)。それに比べて費用が低く、死亡リスクが高いと言える。また、関係漁民が100人程度ならStarlinkを導入する場合の(今後10年間の)総費用は2.4億円で、基地局建設よりけた違いに安いだろうが、個人負担になるだろう。せめてアンテナや蓄電池などを補助金や支援金で補填する方法も検討すべきだろう。

 

再び 知床岬携帯基地局問題について

携帯基地局について、4点手短に意見述べます。

  • 現在の議論は、科学委員会がOUV*1への影響を認めるか否かが論点のように見えますが、ダムやトドと同様に、世界遺産委員会がどう勧告するかがより重要です。批判される可能性があるなら、その対策を練ることが重要です。この問題の重大さに気づくのが遅れた点は申し訳ありませんでした。
  • 最近のESG、環境社会企業ガバナンスに関するある投資方針[i]によれば、世界遺産に負の影響を与える産業は「セクター横断的に投融資等を禁止する対象」とされています。「当該国政府から事前同意があれば別」という注釈はありますが、これほど問題になった事業を強行すれば、携帯電話会社や工事受注企業の経営にも大きな影響を与える恐れがあるでしょう。*2
  • 羅臼町長から意見が公開されています[ii]。観光船事故を引用して、携帯基地局は利用者の生命を守るための事業という説明でした。また、世界遺産は「漁民に不利益をもたらすことはないという約束があった」とも書かれています。利用者の命を守るということなら、まず、第三者による事故調査委員会の報告を公開いただきたい*3。率直に、事故原因は安全遵守義務の欠如であり、それを引き合いに出して携帯基地局を作れというのは問題のすり替えだと私は思います。世界遺産委員会から、事故原因についても問題にされると、OUVへの影響以上の問題になるかもしれません。国連の責任投資原則、ESG投資では、経営ガバナンスは環境問題と同じように重要です。
  • 最後に、世界遺産登録の際の2005年2月の海域WG発足前に、そのメンバーと漁協が直接話し合いました[iii]。その後、漁民がスケトウダラの自主的禁漁区を拡大したことが、海域の保護レベルを上げるという条件を満たす決め手の一つになりました。つまり、漁協は知床世界遺産登録に大いに貢献し、知床の漁業活動と世界遺産が同じ志を持っていると評価されたはずです。今回の基地局工事の中断が、知床の世界自然遺産の管理のために、漁業活動に対して、漁協の了解を得ずに自然公園法等の法令に基づき新たな規制をしないという当時の約束に反するかどうかは海域WGマターだと思いますが、「不利益をもたらさない」という表現は文字通りではありません。ただし、今回の問題でも、基地局を作りたい方々と科学委員会が対話すべきだと私は思います。

 

[i] みずほフィナンシャルグループサステナビリティアクションの強化について」別紙6 https://www.mizuho-fg.co.jp/release/pdf/20220517release_jp.pdf

[ii] 知床岬携帯基地局整備についての羅臼町長としての考え https://www.rausu-town.jp/topics/view/995

[iii] 桜井泰憲(2010) "知床世界自然遺産地域の海域保全と海洋保護区." 環境研究158: 82-89.https://shiretokodata-center.env.go.jp/data/research/paper/kankyoukenkyuu158.pdf

 

*1:顕著で普遍的な価値=国家間の境界を超越し、人類全体にとって現代及び将来世代に共通した重要性をもつような、傑出した文化的な意義及び/又は自然的な価値。世界遺産登録には10個のOUV基準がある

*2:7/11加筆:KDDIはTNFDレポートを公開しています。そこには生物多様性保全への貢献として専門家に相談するとは書いていません(P7)。かわりに「最新の名前判定 AI が動植物の種類を判定するため、動植物の専門家ではなくても、写真を撮影するだけで精度の高い調査が可能です」(P23)と書いていました。https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/sustainability/efforts-environment/biodiversity/pdf/TNFD.pdf

*3:6/28加筆。下記サイトにありました。詳しくは別項で論じますが、5章「再発防止策」には「法定無線設備から携帯電話を除外する」とあります。ただし、 5.3.5「知床半島周辺海域における通信環境改善」として「携帯電話事業者及び関係省庁等」は「知床半島の地域における携帯電話の通信環境改善に向けて具体的な取組を進める『知床半島地域通信基盤強化プロジェクト』を立ち上げた」事実を記しています。※携帯電話を法定の無線設備の船舶事故調査報告書 令和5年9月4日 https://www.mlit.go.jp/jtsb/ship/rep-acci/2023/MA2023-9-1_2022tk0003.pdf

知床岬携帯電話基地局工事について

Sent: Saturday, June 1, 2024 1:28 PM

https://www.youtube.com/watch?v=d94dLYBNf98&t=247s

毎日新聞の山口記者の質問は突っ込んでいて、論点がいくつか見えていますね。

オジロワシが営巣だけが論点なのか(この論点だけで【工事の是非が判断されるなら】、かえって負の「判例」が残るでしょう)

・オジロが問題であるとマスコミは(環境省も?)問題にしているが、科学的論点とは別に、政治的に有効と思っているなら、それは違うと思います(本当にそうだと思っているなら仕方ない。それなら後から修正できます)。そのような政治や市民運動は長続きしません。えてして負の結果を後世に遺すでしょう。

・事前の町長及び科学委員会への説明に問題がなかったか(あるとすれば、その責は環境省なのか事業者なのか)。我々も、少なくとも携帯基地局工事の話は聞いていたので、(皆さんがおっしゃったように)その時に規模などを質問しなかった点は反省すべきでしょう。

・そもそもこんなに広大な太陽光パネルが必要なのか(たとえばhttps://japan.cnet.com/article/20404724/ そんなに広い面積に見えないのですが)。草地なのに(斜面だが)、機材搬入にトロッコが必要だったのか。

・いずれにしても、20年前から〇〇さんらが指摘していたように、土地改変は小規模でも科学委員会に情報を寄せるという方針が徹底していれば、このような混乱はなかったと思います。

 

送信日時: 2024年5月26日 23:29
はい、まさに「対話」が必要と先日から申してきました。

当然ながら、本当に切実に必要なことならば、こちらが変わる可能性もあるはずです。

自然への影響は全か無かではありません。同時に、社会的必要性も、絶対必要か全く不要かではありません。

自然への影響の程度と、社会的必要性の切実さと比べて考えるべきことです。

今回、その両方を理解して、比較した人は誰もいないと思います。

【しかし、日本において、両者を比較衡量する制度はないし、今回も、事業の必要性の度合いに関わらず、絶対評価で環境影響が少ないか許容できないかが決まるでしょう。】

 

2024年5月27日(月) 7:50

そういえば、以下の点は議論されていますかね。

https://www.mizuho-fg.co.jp/.../pdf/20220517release_jp.pdf

 みずほ証券のESG投資の指針に以下の表現がある。「ユネスコ指定世界遺産へ負の影響を与える事業 」もし、知床の携帯基地局敷設を世界遺産委員会が批判したら、携帯電話3社は自分たちの投資家の心配をしないのだろうか。

 

2024年5月21日(火) 14:34 

皆様
本当に必要な施設なのかどうか、設置希望者と議論する場があってよいと思います。
以下の議論を見ても、まずその点の認識に乖離があると思います。
知床の観光価値を求める人々の利便性を追求するために自然を損なうようでは、本末転倒でしょう。
小型漁船にとってはあったほうがよいという意見はあり得るかもしれませんが、本当にどこまでその希望があるのか。そもそも、その程度の希望のために施設を作ることが全国的に通常のことなのか。
自然の価値を認識する側と、【設置】の必要性を認識する側で、互いの見解を知る必要があるでしょう。

無住集落を通いで維持するという選択肢:林直樹著『撤退と再興の農村戦略』(2024、学芸出版社)

林直樹,齋藤晋編著『撤退の農村計画』(2010、学芸出版社)の続編だが、前著とはかなり力点が異なる。改めて前著への書評をネット上でいくつか見たが[1][2][3]、意外と好意的な書評が多い。すべての限界集落の維持は非現実的という指摘への反論は書評としては皆無に近かった。限界集落に住み続ける人への配慮欠如、行政への具体的な助言、合理化を進める政府に向いた書籍などの批判に丁寧に応えようとした形跡がうかがえる。

 新著は撤退と再興を並立した選択肢とする趣旨ではなく、「撤退しても再興できる」ことを説く。また、それはあくまで選択肢の一つであり、活性化も含めた様々な限界集落の生き残り策を論じている。特に、定住者のいない無住集落だが「通い」(このキーワードを68頁で提案しているが、126頁以外でほとんど使われていない。移出子や移出者より分かりやすいと思う)で維持された成功事例を論じている点が興味深い。前著の積極的撤退からの主題である自主再建型移転にこだわる著者の本音は題名および撤退して再興を論じる第1章、建設的縮小の第4章からうかがえるが、むしろ無住集落の農村戦略(第2章)、常住困難集落の様々な方策(第3章)が本書の売りと思われる。

定説を疑い、タブーにこだわらない著者の姿勢は健在だ。放棄した集落は自然も荒廃するという公式見解を疑い(37頁)、中山間地の多面的機能(調整サービス)の法外な経済価値を「トリック」(49頁)、農業自給率向上論にも疑問を呈する(50頁)。私にはいずれも若干異論があるが、一理ある。ただし、財政健全化は「焼け石に水」(55頁)で限界集落撤退の理由にはならない点では前著の根拠の一部を修正しているようだ。また、総人口縮小時代を迎えて、限界集落への予算措置が取れない未来への警鐘は変わらない(39頁)。行政サービスは属人(居住人口依存)と属地(面積依存)がある(54頁)という点は明解だ。ただし、査読論文もなく、多変量解析の結果だけで議論しているが、(一般化線形モデルで標準的に行うような)より精緻な議論が欲しいところだ。

 撤退しても30年は再興の可能性が十分あるという分析に異論はないが、30年は短いともいえる。通いによる維持が世代をまたいで可能かが気がかりだ。

 他の分野の重要なキーワードと深く関係するが、その術語との関係をもっと論じてほしい場面がいくつかある。前出の調整サービスもそうだが、土砂流亡の容認(47頁)はダムの人工放流と関連するだろうし、カーボンオフセット(34頁)とクラウドファンディングは別のところで論じても生態系サービスへの支払い(PES)全般は論じていない。直接通ってかかわれない都市住民への期待を否定的に論じているが(129頁)、金銭的支援の意義をここで述べてもよいだろう。

 無住集落再興の条件として歴史的連続性と生活生業技術を上げているが、これら(特に166頁の議論)はIPBES(2022)価値評価報告書[4]でいう関係価値と生物文化多様性に深くかかわるはずだ。生態系サービス論にも言及していないが、さらに最新の概念にかかわるはずの議論が本書にもある。ただし、生活生業技術が無住となっても維持できるとか(113頁)、複数の集落のそれらをまとめて維持する「種火集落」という議論は、その意味では若干注意が必要だ。歴史的連続性はノウハウだけでなく生きて維持しなくては完全ではないし、近隣の集落でも生物文化は少し異なるはずである。

 本書には索引がない。目次が詳しく、出版社サイト[5]にもあるので、文字検索に使えるが、本書で初めて知るような(あるいは本書の造語で、おそらく英語がまだない)キーワードが多数あるにもかかわらず、どこに載っているか読後に反芻しづらい。今からでも、索引をネット上に載せて、文字検索できるようにしていただくとありがたい。

 

[1] 『撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編』(林直樹)の感想(22レビュー) - ブクログ (booklog.jp)

[2] Amazon.co.jp: 撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編 : 林 直樹, 齋藤 晋, 江原 朗: 本

[3] 撤退の農村計画 / 林 直樹/齋藤 晋【編著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア (kinokuniya.co.jp)

[4] IPBES自然の多様な価値と価値評価の方法論に関する評価報告書 SPMの概要 (iges.or.jp)

[5] 『撤退と再興の農村戦略 複数の未来を見据えた前向きな縮小』 | 学芸出版社 (gakugei-pub.co.jp)

10/29 ヒグマシンポジウムへのご意見ご質問を歓迎します

個体群生態学会札幌大会参加者、道庁オブザーバーの皆様

 

ヒグマシンポジウムへの参加ありがとうございます。

質問がありましたらZoomへの書き込みまたは、この投書のコメント欄に書き込んでください。どなたでも書き込むことができます。

 

ある行事での参加者からの主な感想と松田の回答

Q:自然環境への負荷と経済活動のバランスが大変難しいと感じた。    

A:ご感想ありがとうございます。生態系には再生力があり、再生力の範囲で利用するなら持続可能です。再生力を超えて乱獲すると、バランスをとれなくなります。私は楽観しています。

Q:経済的割引率と共有地の悲劇の話は非常に興味深い内容でした。    

A:ご感想ありがとうございます。経済的割引率と共有地の悲劇は、気候変動を含むすべての環境問題に通じる2大キーワードであると講義でも説明しています。

Q:エコラベルという取組みの可視化、ブランド化、消費者の意識改革の動きが時代とともに進んでいることは非常に興味深かった。人口が世界的100億人まで増加していく中で、水産資源の量的需要は止まらないことが現実と考えていますが、エコラベルの普及により資源管理が効果を発揮し、少しでも長く海洋バランスの崩壊までの時間を稼げることに期待しています。  

A: ご意見ありがとうございます。欲張りかもしれませんが、生態系崩壊までの延命でなく、Nature positive(生態系の回復)を目指しています。人口爆発の危機感はSDG17目標から外れ、遠のいている印象です。

Q:認証制度についてはまだ消費者に浸透していない気がします。私は漁業界にいるので広めていきたいとも思います。魚離れも近年顕著に表れていると感じます、単価が安価になることを期待しています。    

A:ご意見ありがとうございます。認証制度は消費者よりまず小売店や外食産業、その機関投資家に浸透するとよいかもしれません。欧米ではどちらかと言えば低価格でなく高級品化で成功しているように思います。日本では両方必要だと思います。

Q:質疑を含めてフランクな説明をしていただけて、理解が進んだように思います。ルール作りも環境対策も日本だけではなく国際的に進める必要があるので、世界の中でどのように日本の意向を通していくかが課題であると感じました。  

A: ご意見ありがとうございました。必ずしも日本だけが特殊なのではなく、途上国に共通する問題が多々あります。より多様な産業実態に合う基準を作るよう提案することが重要だと思います。

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