日本と知床の河川について

Date: Wed, 22 Jun 2005
皆様 松田です。【略】
 先日、読売新聞では「知床が日本の河川環境の保全の手本となってほしい」というIUCN評価書に係った方の不見識と思われる報道がありました。【略】
・日本のダム関係者は、よく日本の河川の特殊性(急峻で下流域に大勢人が住んでいる)を挙げます。だから欧米の大陸河川とは管理方法が違うのだと(ダムと堤防と直線化が必要と聞きました)。【日本における沖積平野(ここでは、標高が洪水時に河川水位以下となる場所とする)の面積は国土面積の10%を占めている。これに対して、人口はその約半分の51%、資産はその75%が沖積平野に集中している。したがって、沖積平野を流下する河川に対する「治水」は、わが国の国土保全上、すなわち「財産」を洪水等の自然災害から守るため重要な意味を持つ(国交省資料を改変)】
知床管理計画で「河川」を検索しても、このことは全くかかれていないようです。この点を説明しないと、欧米の方には日本の事情がよくわからないのではないでしょうか。
 しかし、それならば、知床世界遺産区域は住居と自然保護の優先度が日本のほかの地域とは異なってもよいはずです。管理計画によれば、知床では「居住者の安全性」と「自然環境の保護」の両立を目指すのだと思います。つまり、世界における日本の特殊性と日本における知床の特殊性を明記すべきだと思います。
・IUCN評価書にある勧告を無視できないとすれば、河川については、基本的には「2004.1知床世界遺産候補地管理計画」と今回の「IUCN評価書」を満たす解を科学的に探すことになると思います。
・実験的要素を取り入れた順応的な管理計画を実施すべきです。その成果を検証しつつ政策を固めることにより、現時点では対立する見解も、科学的事実によって将来合意することが出来るでしょう。実験的な対策を実施し、その効果を科学的に明らかにすれば、「撤去」「魚道」などと初めから硬直的な方針を決める必要はないと思います。この検証には5年かけてもよいと理解しています。【IUCN評価書の4.5河川工作物の節の最後にそのように書いてあると思います。】
 さて、2004.11.5 IUCNへの政府回答には、以下のようにあります。
○推薦地内の河川環境については、周辺の森林と合わせて一体的な森林生態系として保全することを第一に取り組んできたところであり、河川工作物については、住民の生命や財産の保全のため、必要な箇所に限って設置したものである。
○推薦地内には、流域全体もしくは流域の大部分が含まれる河川が44河川あり、現在、河口部が滝となっていない河川などサケ・マスが遡上する可能性のある河川について、サケ・マスの遡上と産卵の有無等の状況を把握する補完的な調査を行っているところであり、この調査結果が2005年の春頃までには得られる予定である。今後、この調査結果を踏まえ、サケ・マスへの河川工作物による影響評価を実施する。
○現在、推薦地内の44の河川のうち9河川のみに河川工作物が設置されているが、これらは住民の生命や財産を保全するため、一般的に地域の要請に基づいて設置しており、土砂流出や山腹の崩壊を防ぐことにより森林の生育基盤を保全する機能や、土砂災害を防止する機能を果たしている。従って、将来における対応は別として、これらの河川工作物によって住民の生命や財産を保全する必要性がある間は、これらの施設を撤去することは困難と考えている。
○サケ・マスが遡上できるような魚道の設置については、既に一部の河川において設置されているほか、専門家の意見を聞きながら設置を検討している河川もあるが、通常は涸れ沢となっている部分に設置されている河川工作物など魚道設置が必ずしも必要でない場合もあることから、今後も専門家の助言を得つつ設置の必要性を調査し、必要とされたものについては、逐次魚道の設置等を行う用意がある。
【略】「住民の生命や財産の保全のため、必要な箇所に限って設置したものである。」とありますが、まず、住民の生命にすべてが必要な堰堤でしょうか?漁民の番屋の場合、これが必要かどうかを議論すべきだと思います。財産の保全というが、堰堤建設費より高価といえるのでしょうか?
 枯れ沢については、増水時なども含めて吟味すべきです。数十年に一度でも遡上機会があれば、サケ個体群の維持には有効だと思います。
 このような判断は、日本全体の堰堤の事情とは独立して、知床自身の状況を考え、管理計画とIUCN評価書に照らして、世界遺産に相応しい対策をまとめるべきだと思います。