Date: Wed, 21 May 2008 20:59:56 +0900 (JST)
横浜国大の松田裕之です
朝日新聞では鯨肉「横領」だけが問題視されているようですが、グリーンピースジャパン(GPJ)の情報取得手段そのものの違法性の議論を最初に私が見たのはWildlife*1でした。インターネット上では同様の主張の方が目立ちます。最近の報道によれば西濃運輸は被害届を出し、GPJは西濃運輸に対して謝罪したということですから、その手段は違法性があったのでしょう。
まず、GPJが非合法活動を行う過激派であるかどうかが問題です。シーシェパードとは一線を画しているはずですが、非合法活動をいとわぬ集団ならば、この批判は無意味でしょう。
情報源が違法でも、「横領」という違法行為が発見できたならば、「横領」を問題にできるという主張もあり得ます。しかし、これが「土産」であり、違法ではないが社会的に批判されるべきという程度では、違法行為自体のほうが問題でしょう。まさに、「目的のために手段を選ばず」ということでしょう。
個人情報を盗み見るという行為は、まがりなりにも市民運動をするものにとってはかなり悪質です。郵政民営化以来、私以外でこのことを問題にする人は少ないのかもしれませんが、戦前の検閲制度の反省を踏まえ、通信の秘密は憲法21条2項により厳に守られているはずです。それを「環境」団体が【犯し】てしまったとすれば、大変残念なことです。個人情報を公権力の手から守る運動に対して、自殺行為といえるでしょう。
この点を問題としない新聞報道もまた、個人情報を保護するという報道の本分を忘れていると思います。
次に、「土産」が違法かどうかですが、これは理解しがたい。税金の不適切な使用と批判を受ける可能性はありますが、調査捕鯨船(共同船舶)が土産行為を禁じていないならば、「横領」とはいえないでしょう。
すなわち、今回の「告発」は有罪を狙ったものというよりは宣伝活動です。それを違法行為によって行ったということです。
では、その宣伝は何のためかといえば、鯨肉の利用を減らすためのものといえるでしょう。【】商業捕鯨が長く再開できない中で、たしかに鯨肉の需要は減っています。これは、反捕鯨運動の「成果」といえるでしょう。彼ら自身の宣伝活動が需要減少に貢献しています。今回は自家消費を制限するための手段といえるでしょう。
調査捕鯨の妥当性は、土産の是非ではないはずです。スキャンダルばかりおいかけて生態系保全の本質から離れた論争にすることがGPJの今回の行動です。
生物多様性以上に、文化の多様性は国際的に重視されつつあります。絶滅危惧種ではない鯨を利用し、さまざまな食材その他の利用を図る文化を根絶することが反捕鯨運動のやっていることです。
私は、きわめて厳しい管理枠で国際的に合意した商業捕鯨を再開して資源管理の実践を積むことと、鯨肉利用という文化を保全することのほうが大切だと思います。
【鯨肉「土産」問題】よりも、トドの駆除枠の期中改定の方がずっと問題なのですがね。
*1:野生生物保護などを議論するメールリスト