環境科学会 企画シンポジウム(生態リスクCOE)のお礼

Date: Fri, 19 Sep 2008 10:13:57 +0900
 環境科学会のシンポジウムの件では大変お世話になりました。かなり重要な議論ができたと私自身は思っています。
 まず、アジア視点ということで、今後のアジアの経済発展に伴うリスク管理の重要性と予防的順応的管理の方法論について、亜鉛、PFCs、農薬などを例に具体的な議論ができたと思います。

  • 順応的管理においてはベイズ法によるリスク評価の更新が極めて有望です。林さんはMCMCモンテカルロマルコフ連鎖)法を用いてその具体例を話しました。事前分布を一様分布においていましたが、各物質各生物分類群ごとの情報はあまりに少なく、不確実性が高いので、物質についてはQSARなどの方法を取り、事前分布を工夫できれば良いと期待しましたが、林さんのお返事の通り、まだその合意を得られる状況ではないのかもしれません。
  • 今後、日本を含むアジアでPFCsのリスクは拡大するだろうという頭士さんの指摘はその通りだと思います。その場合、製造、使用、廃棄の各段階でどのようにリスク低減策を計るかという分析が必要で、汚染源が点源か非点源かで対策も異なるのではないかと思いました。
  • 永井さんの農薬の例は、実際にはリスクは高くないかもしれませんが、高いとわかった場合に具体的にどんな低減策が考えられるかを事前に示している点が興味深かったです。このような事前の準備こそ、リスク管理といえるでしょう。
  • 亜鉛を例に、予防原則による規制の事後検証の必要性が指摘され、下げるべきは濃度ではなく、リスク自身である(永井さんと岩崎さんの言葉)ということで、岩崎さんのような実際に基準値より濃度の高い場所で野外調査を行うというのは重要だと思います(共同研究者ですが)。その結果、休廃止鉱山のそばのように濃度が極端に高い場所では底生動物群集の組成がはっきり違うこと、基準値の二倍程度の場所では有意な差はなく、BODなど他の要因で組成が決まるという指摘はもっともだと思いました。
  • 最後に、加茂さんから順応的管理の方法論として、見直しの流れ図を提案いただきました。順応的管理を実施するうえでは、制度規制の前に自主的に対策を立てて検証するなどの試みが重要であるとの意見がありました。業界も、予防原則で規制される前に、一部で自主的にこのような取り組みをするようになれば、面白いのではないかと思いました。自主管理も、我がCOEが掲げたアジア視点の一つです。

 この取り組みは今後も続けて参りたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
 最後に、改めて、締め切り間際にお願いしたにもかかわらず、参加講演いただいた皆さんと、参加いただいた聴衆の皆さん、企画の場を与えていただいた大会組織委員会のかたがたにお礼申し上げます。

シンポジウム1   9 月18 日(木) C 会場  9:15 〜 11:45 「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」
オーガナイザー 松田裕之 (横浜国立大学大学院環境情報研究院)教授

  1. 「化学物質の確率論的生態リスク評価とリスク比較」林 岳彦(国立環境研究所)
  2. 「化学物質による生態リスクの管理に向けたPFCs の汚染源解明に関する研究」頭士泰之,竹田智治,益永茂樹(横浜国立大学
  3. 「農薬の生態リスクの評価と管理」永井孝志((独)農業環境技術研究所
  4. 亜鉛濃度が河川底生動物群集に及ぼす影響 −野外調査からの知見−」岩崎雄一,松田裕之(横浜国立大学)加賀谷隆(東京大学)宮本健一((独)産業技術総合研究所
  5. 「化学物質の順応的管理について」加茂将史,内藤 航((独)産業技術総合研究所
  6. ディスカッション:松田裕之