MSYを用いないほうが良い理由

Date: Tue, 21 Jun 2016 13:49:07 +0900
【密度効果がある(MSYが定義できる)にもかかわらず、MSYを用いないほうが良いと私が考える理由は先日も引用文献付で書きましたが、以下の通りです。】
1.不確実性、非定常性、複雑性(種間関係)がある中で、種別のMSYという概念は成り立たないし、複数種の総漁獲高を最大にする解が多種共存を保証するとも言えない。【Matsuda and Abrams 2008=私の第4回世界水産学会議の招待講演】

  • たとえば変動下のMSY理論の一つであるConstant escapement【漁獲後資源量一定策】は観測誤差にきわめて脆弱です。これをとるべきではない
  • 環境収容力の推定もControversialです。50%Kと合意しても、Kの値が事後研究によって変えられる可能性があります(トドの管理目標はKにリンクしていない)。
  • 被食者のMSYは捕食者の漁獲量によります。一意的には決まりません。群集全体の漁獲高を最大にする解は一意に求まりますが、捕食者を根絶するような解がたくさん出てきます。(Matsuda and Abrams 2006)

2.シカの管理は、Kの半分程度では害獣として過剰で、それよりずっと低い密度に誘導しています。MSYが定義できればそれに従わねばならない(「密度依存性の存在とMSYの妥当性は同義」とはそう読めます)とはいえません。【Kaji et al. 2010】
3.生態系サービス(ES)全体の最大化とESの一部である漁獲高の最大化は解が違います。【Matsuda et al. 2008=私の第5回世界水産学会議のキーノート講演】

【親魚量Ntと加入率Rt/Ntに負の相関があることからといって必ずしも密度効果があるといえないことはすべての】生態学の教科書に載せないといけませんね。真実が普及しないことと、真実が専門家にわかっていないことは違います。たしかに、査読者が理解していないことに問題があります。
 それから言えば、レスリー行列に0歳を加える【今年生んだ卵が来年0歳になるような齢構成モデル=松田2004】という間違いとか、Tuljapurkar理論を知らずにレスリー行列の加入率を加入率の平均値を入れて増減を論じるなどの間違いも後を絶ちません。個体群生態学は簡単なようでいて、熟練者でないと間違いの多い学問だと思います。
【その意味では、Kishida & Matsuda 1993も問題があります。】
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