櫻本和美さんの密度依存性批判に関する英語論文について

Date: Fri, 17 Jun 2016 00:28:55 +0900
【密度依存性に関する】論争はとっくに決着がついていると思っています。たとえば【Turchin 1995】のP20:

These proposals [Idea of density-independence] have now been rejected on logical grounds, and it is generally accepted that population regulation cannot occur in the absence of density dependence (Murdoch and Walde, 1989; Hanski, 1990; Godfray and Hassell, 1992).

この本のように、そのうえで個体群は本質的に非定常であるという議論がされているのだと思います。LOGICAL Groundsですから。
 それは、【】増加率の相乗平均がぴったり1になるのは確率測度0であり、そうでなければ絶滅か無限大になるということです。そして、エサなどの資源の有限性により、密度効果が機能する生態学的根拠があるということです。同じ環境で、個体数が1万倍の時に加入量が1万倍になると考える合理的理由は、どこにもないでしょう。
 上記のPeter Turchinは個体数変動にカオス(環境変動による変動でなく密度効果がもたらす不規則変動)があることをネズミなどの野外データから研究している張本人です。私は、加入量が毎年激しく変動する理由は多くの場合に環境変動が大きいからだと思います。しかし、だからと言って密度効果がないというのは不自然です。実際の時系列で密度効果が検出できないことは多々あるでしょう。しかし、統計的に検出できている例があり、さらにカオス(に環境変動が重なっている)と認められている例もあるのです。
 学問は、このように着実に進歩していると私は思います。

Date: Mon, 20 Jun 2016 15:56:04 +0900
Sakuramoto K (2015) Illusion of a Density-Dependent Effect in Biology. Agricultural Sciences, 6: 479-488
【上記論文への意見です】

  1. 密度依存性を単純な負の相関で検定した場合のArtifactはよく知られており、Turchin(2011)や伊藤他「動物生態学」にも説明されている。【密度依存性の疑似相関と正しく検定する方法を載せました】
  2. 密度依存性を統計的に正しく検出する方法もすでに知られており、かつ、密度依存性が統計的に有意に検出されている例は多々ある。たしかに環境変動や観測誤差が大きい場合は統計的に検出できない場合もあるが、検出できないことは存在しないことではない。
  3. 密度依存性が存在しないということは論理的にあり得ないというのが生態学の定説である。(【上述】のTurchin 1995など)
  4. 密度依存性と環境変動は排他的なものではなく、両方存在する。これは1970年ころの水産資源管理においてもよく知られたことであり、Hockey-stick型の再生産関係を用いた資源管理にも既に使われている。

P. Turchin (1995) Population regulation: old arguments and a new synthesis. N. Cappuccino, P.W. Price (Eds.), Population Dynamics, Academic Press (1995), pp. 19–40