まるごと保全協会

Date: Wed, 19 Oct 2005 12:42:37 +1200
○○様 ありがとうございました。
 さて、年明け頃に湯本・松田編「世界遺産がシカを喰う:シカと森の生態学」が文一総合出版から出る予定です。昨年秋の大台ケ原シンポジウムの講演録です。昨日改めて全体のゲラを読みましたが、手前味噌ですが、なかなかのできばえと感じます。
その中で、私が最も言いたかったことは以下の通りです。

こうしてみると、シカが森の「悪者」のように思われるかもしれません。日野輝明さんが説明しているように、ある一種の生物が森林生態系の状態を一変させる場合、その生物を森林改築者(リフォーマー)と呼びます。シカは典型的な「森林改築者」です。だからといって、「悪者」という言い方には、生態学者としては抵抗があります。かつてはシカを資源として利用し、人と鹿と森はうまい関係を築き上げてきたのですから。変わったのは、人と森の関係であり、人と鹿の関係です。そのために、鹿が森の「悪者」に化けてしまった。
 私はここまで、シカを捕ることによって減らすには、どれくらい捕ればよいかを議論してきました。これは数学的に明快な解析であり、価値観を超えたものです。捕るべきかどうかと言うおおもとの議論は避けてきました。その結果、シカを捕って減らすのは、思った以上にたいへんであることもわかりました。大台ケ原で年間数十頭の捕獲で、減らすことができるでしょうか。大台ケ原が閉じた空間なら、その程度でもよいかもしれません。しかし、大台ケ原は奈良県三重県の広大なシカ個体群の生息地のごく一部です。個体群全体を減らすには、数十頭では全く不十分です。捕ると言う倫理的に重大な決断を下したにもかかわらず、その政策は、少なくとも今のところは、目標を達成するには程遠いと思います。

Date: Thu, 20 Oct 2005 12:48:41 +1200
数理生態モデル勉強会の皆様、12・3に勉強会日程を変更する件、すでに予定を組まれていたかたには大変申し訳ありません。12・9−10には屋久島に再び行かねばならなくなりました。「屋久島まるごと保全協会」(yoca)の会合があります。これは自然だけでなく、人と自然をまるごと保全するという意味だと理解しています。詳しくは矢原さんのY日記を参照してください。
 いよいよ、「合意形成の科学」の実践です。その理論は、私自身の言葉としては2001年数理科学原稿に始まり、2005年の自然再生事業指針および「生態リスクマネジメント手続きの基本形」に掲載したものです。今までの若干の事例紹介は11月のリスク研究学会の講演要旨にあります。