ある出版社への書簡

 【知床の企画】ざっと拝見しましたが、漁業、エゾシカ狩猟、先住民など、人と自然の関係によって成り立つ自然という側面がほとんどないですね(仕方ないですが)。漁業は今後も続けるが、これは貴重な自然に対する脅威という認識に(読者は)なりそうです。シカは獲るべきだと私は思っているが、この企画からはその理由は見えないでしょう。
 北方四島との(自然の)連続性が今後の鍵となります。【】地図などでも隣にある国後島が見えるように書いていただけるのでしょうか。IUCN評価書でも、国後・択捉に将来は拡大する提案がされています。視野と縮尺によりますが、できれば、本来は国後が見える範囲の地図で国後を消すようなことはしないほうがよいと私は思います。隣にあるのは事実であり、それは生態学的にも重要なことだと思っています。
エゾシカ個体数の推移などのデータや,また,駆除するとした場合,理想の個体数(密度?)はどれくらいなのかといった科学的裏付けができるものを紹介したいという出版社の要求に対して】
 残念ですが、そんなものはありません。
 地球温暖化では世界の平均気温の理想気温が科学的に裏付けられているのですか?京都議定書はそれを実現するための方策なのですか?【中略(エゾシカ理想の個体数は)】他の方に聞いてください。科学者なら、誰も答えられないと思いますが。*1

*1:ある人間社会にとって最適なシカ密度とか、生態系の状態ならある程度考えることができるかもしれない。しかし、人間の価値観と離れたところで生態系の健全な状態とか、ましてそれを人間が誘導するという施策がとられるわけではない。理想とする人と自然の関係を決めてくれたら、それを実現するための科学的方策を提案することはある程度できるだろう。しかし、理想自身が科学で決められるものではない。このかたは、環境問題が人間の問題であるという根本が理解できていないようである。知床世界自然遺産の自然を論じるのに、漁業は登場しないらしい。まぁ、どんな特集ができるか、お手並み拝見といこう。