岡崎「絶滅の生物学」国際ワークショップ

Date: Sat, 18 Mar 2006 10:09:03 +0900
【】昨日まで「絶滅の生物学」(基礎生物学研究所主催)第2回国際ワークショップに参加していました。http://neco.biology.kyushu-u.ac.jp/%7Eyahara/OBC%20program.pdf(未発表研究成果を非公開で紹介しあうという趣旨の会議です)。気に入った講演は末尾に紹介するとして,本題を述べます。以下のような発表がありました。
Melanie Stiassny (American Museum of Natural History, USA)は“Assessing Freshwater Extinctions: the Data from Freshwater Fishes.” これは【】世界の淡水魚の絶滅種をまとめて分析していました。日本でも(戦前の)絶滅種が2、3あると紹介してEnric Sala (Scripps Institution of Oceanography, USA)は“Ecological Extinction and Community Organization”、Jeremy Jackson (Scripps Institution of Oceanography, USA)は“Ecosystem Extinction in the Seas”という話で、ともに海洋生態系が壊れているという主張の紹介です。「生態系の絶滅」を定義無しに使い、まだほとんど海洋種の絶滅が知られていない段階で,Myersの上位捕食者9割減少説や、PaulyのFishingDown、彼の【SCIENCE293:23-2001論文】などをもとに説いていましたが、たとえば「さんご礁生態系の絶滅」ならまだわかりますが、「海洋生態系の絶滅extinction of the entire ecosystem」といっても生態系がなくなるわけでなく,科学的な表現とはとても思えませんでした。
 Jeremy Jacksonと米国生態学会長のJane Lubchencoが去年のメキシコのDiversitasの会議での基調講演発表資料はhttp://www.diversitas-international.org/link1.htmlにあります。彼らの講演は矢原さんが紹介していますがhttp://d.hatena.ne.jp/yahara/20051130、Jeremy Jacksonは「海が壊れる」の首謀者であり、Jane Lubchencoは科学者の役割としてこのような主張をすることを意識して説いています。
 岡崎ワークショップの主催者は基礎生物学関係で,かつ生態学者はいないにもかかわらず、ホストとしてずっと会議を聞いていただきましたが,最後に「○○みたいだ」といっていたのが印象的でした。【】
 そこに、米国学会がWFC横浜大会での基調講演候補に挙げたMichel Loreauの発表資料もあります。特に海洋関係の専門家ではありませんが、生物多様性の意義を力説しているので、米国水産学会もそれを期待しているのでしょう。逆に言えば、このように多様性の意義を語る学者は少ないということです。 上記3名の発表スライドは,是非ご一読を勧めます。
 岡崎で私【】は「鯨も捕鯨保全できるか」というJudy Zeh(元IWC科学委員会議長)の昨年札幌での国際哺乳類学会の基調講演題目を紹介したり,順応的管理や最大持続生産量(MSY)理論の功罪を紹介し、日本のサバ漁業に資源回復計画を説得する逸話、知床世界遺産で果たした科学委員会の役割、日本生態学会委員会の自然再生事業指針の取組み、IUCNのRedlist基準の問題点、予防原則と第2種の過誤の関係などを説明しましたが,予防原則は○○さんがうなずいていたという証言がありましたが、科学者の役割(利害関係者になるのではなく,合意形成を支援する)には【】公然と反論がありました。たしかに、上記のLabchenkoの講演とは相容れないかもしれません。
 考えてみれば、彼らの発表に,国際会議で重要性を訴えたという発表はたくさんありましたが、彼ら自身の具体的な自然保護の取組みの紹介がほとんどありませんでした。人間は自然を痛めて生きているものです。個々の問題で合意を取り付ける努力をするのと、外圧としての世論を作る運動をするのでは,自ずと姿勢は異なるでしょう。漁業者の顔を見ずに禁漁を説くのは簡単です。そのほうが自然に優しいといえば、たしかにそのとおりでしょう。2004年のバンクーバーでの世界水産学会議では,冷房の効きすぎた大会場で水産物の一切でないランチが振舞われ、残飯の山だったこと、その中で漁業投棄の問題ガ議論されていたことを思い出します。
 私が気に入った講演は以下の二つです。
 Emma E. Goldberg (ポスドクhttp://www.biology.ucsd.edu/~goldberg/)& Russell Lande (University of California San Diego,USA)は"Inferring Regional Evolutionary Rates from Present-day Biogeographic Information"という話で、たいへん明解でした。企画者の矢原さんが紹介しています。http://d.hatena.ne.jp/yahara/20060314
陸上の話でしたがChristopher WilmersのThe effects of age structure and predation on population response to changeという話は明快で、top-down制御が優先している狼個体群では環境変動の影響を緩和する(狼が減ったあとは緩和できない)というもので、真偽はともかく、今までのbottom-up, top-down論争よりずっと具体性がありました。
http://nature.berkeley.edu/~cwilmers/
○○さんを誘えばよかったと後悔しています。共同企画者のCallum Robertsをはじめ、Liz Hadly、Ransom Myersと3人も欠席者が出ました【】。