7.4横浜国立大学 横浜工業会 講演会

「横浜国大グローバルCOEが目指す“アジア視点”の生態リスク管理とは」
松田裕之(横浜国立大学大学院環境情報研究院・グローバルCOEプログラムリーダー)
 「環境リスクといえば横浜国大」と言われる。中西準子前教授らが切り拓いたブランドである。本学はまた最も生態学者の多い大学の一つであり、日本国籍初のブループラネット賞を受賞した宮脇昭名誉教授の作った通称「宮脇の森」は、緑豊かな本学の特徴である。「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」は全国全学問領域で63課題が昨年採択された文科省教育研究プログラムの一つで、昨年度に「生態」を課題名に掲げて採択された全国唯一のCOE拠点である。
 本学は早くから環境と安全を重視して来た。環境情報学府、環境リスクマネジメント専攻などを日本で初めて設置し、環境化学生態学の国際的な第一人者を多数輩出してきた。そして、環境化学生態学が異なる理念と方法で環境政策に取り組んでいる現状を鑑み、人文社会科学の研究者も交えて両者を共通の理念で体系付けた生態リスク管理学を提案した。
 本プログラムは環境情報研究院を主体とし、工学研究院、国際社会科学研究科の教員も含め、さらに国立環境研究所と連携して取り組んでいる。理念方法論、生態系機能、生態系サービスの3つグループに分かれて活動し、経済発展著しいアジアでますます問題となる生態系破壊の問題を地球温暖化、環境汚染、外来種拡大、廃棄物、土壌浸食、大量絶滅、乱獲、自然観光などの諸問題について、リスクと共生する新たな方策を提案しつつある。来年度には全学共通の副専攻として「環境リスク管理学国際教育課程」(仮称)の設置を準備中である。公開掲示板を開設して討論を進め、公開講演会などの諸行事を随時開催していますので、関心あるかたはぜひご覧いただきたい(http://gcoe.eis.ynu.ac.jp/)。
 横浜国大生態リスクCOEでは,21世紀COEプログラムをはじめとする横浜国立大学の多くの実績を踏まえ,国立環境研究所と連携し,人口増加や経済発展に伴って生態系の破壊と生態系サービスの劣化が著しいアジア発展途上国等の生態リスクの適切な管理に貢献するため,以下のことなどに取り組む。

  • 国連ミレニアム生態系評価(MA)にアジア視点を加えた国際的なリスク管理の理念・基本手法・制度を解析して提示する
  • アジア等の森林植生・土壌・沿岸域等の生態系機能を調査・解析して外来生物管理を含めた具体的な順応的リスク管理手法を提示する
  • 農薬・肥料・有害物質管理,バイオマス高度利用,遺伝子操作作物利用,廃棄物循環利用等,具体的実践的なアジア途上国の生態系サービスのリスク管理手法を開発・応用する
  • これらの「基礎研究」と具体的な「事例応用研究」,新たな政策アイデアに基づく「社会制度提案」の3者を繋げる研究者・行政・企業・市民のネットワークを国際的に構築する
  • これらをもとに、自ら新しい領域を開拓する創造性の醸成,広い視野に立った客観的分析と総合に基づくシナリオ構築能力の養成、さらに内外のネットワーク形成能力ならびに社会活動における交渉能力の向上を重視した国際的に活躍する若手研究者等の国際的な人材育成拠点を形成する.

 以上5点を踏まえて、以下のような研究計画を立案した。

  • 順応的リスク管理手法の提示と具体的適用
  • 次元の異なるリスクを比較衡量するためのリスクトレードオフ解析手法
  • 多元的で多様な主体が協働して環境管理を行う環境ガバナンスや自然公園管理制度の国際比較
  • 生態リスクの評価・予測・管理のためのシナリオの構築・提案と応用
  • アジア等の森林植生,土壌,沿岸域などにおける生態系機能の調査・解析
  • それらを踏まえた生物多様性外来生物等の評価・管理手法の提案
  • 有害物質・肥料等の生態系や水産物・水利用への影響評価技術と新しい順応的リスク管理方法の提案
  • 生物資源・廃棄物の循環利用・高度利用のための技術・社会システムの開発と応用など,生態系サービスの持続可能な技術・手法の開発・応用
  • 世界中のデータ提供者との信頼関係を構築した生態リスク管理に関する環境科学・行政のための知的情報基盤の構築・整備を図る.