新刊紹介 よくわかるクジラ論争

皆様、下記の本を紹介します
「よくわかるクジラ論争-捕鯨の未来をひらく」小松正之 著(成山堂、ベルソーブックス022定価1,680円(税込)四六判 220頁)
小松正之氏については既に紹介した。捕鯨論争については私のホーム頁で既に何度も取り上げているが、小松氏は国際捕鯨委員会の日本代表団の中心人物だった。ベルソーブックスというのは、日本水産学会の出版・編集委員会が普及啓発のために「高校生向けに」著す本であり、私もその委員の一人である。故松宮義晴教授から引き継いで、私が推挙した本は魚住雄二著「マグロは絶滅危惧種か」に続き、本書が2冊目である。委員会の中では、IWCの当事者である行政官に執筆を依頼することへの危惧のような意見もあった。しかし、以前彼の共著「国際マグロ裁判」を読んでから、彼に書いてもらうのが、一番わかりやすく、また読者の心を打つのではないかと思った。もちろん中立の立場ではないが、科学的に不適当なことは編集委員会として校閲すれば防ぐことができるだろう。無味乾燥な本よりも、論争を巻き起こしても、臨場感と思い入れのある本のほうがよいと判断した。
 かえって、著者の旗色が鮮明なほうが、読者は客観的に読めるのではないかと思う。 もちろん、彼と私でも意見が分かれることもある。生存捕鯨問題はその典型だ。あのときは半年後に撤回して生存捕鯨を認めた外交上の失態を、ずっと生存捕鯨を認めないよりはよいと思った。なぜなら、実際に先住民が捕鯨できなくなるからだ。ゼー女史も言うように、IWCには捕鯨の当事者が直接判断する場ではなく、加盟国が議を決する。国家同士の駆け引きに翻弄されてはたまらないだろう。
 しかし、その翌年に分担金留保、一時退席して、何も得ぬままに撤回したのはばかげている。日本の外交に戦略も責任感も大儀もないというのはこのことだ。前年の失敗を学んでいない。IWC脱退は一つの有効な切り札であり、脱退してはいけないとは私は言わない。しかし、脱退するなら筋を通すべきだし、そのそぶりだけ見せてやめるというのはただの恥さらしだ。他国からますます軽く見られることだろう。
 IWCにはいろいろあったが、その辺の事情も、この本を読んで、当事者だった彼の心情を探ってみた。