61万株1円事件 日本人のモラルとは

Date: Sat, 17 Dec 2005 11:46:53 +1200
皆様
 今朝16日の日経新聞によると、61万株1円事件は5重のミスの連鎖があったと分析しています。また、違法ではないのだからといって、返却に応じない人がいるといいます。また、個人投資家で大儲けした人がいると匿名で報じています。
 もとよりこれはモラルの問題であり、法の問題ではありません。日本人と外国人のモラルの差が現れています。そして、モラルの欠けた社会は【特に想定外の事態に対しては】うまく機能しません。今回はその典型例だと思います。
 私は、外国投資家は返還しないが、国内投資家は返還するだろうと予想していました。これは新聞が自主返還を呼びかけ、買い手の顔が見える報道をすればという条件付での予想です。
 しかし、外国の投資家UBSは返却するらしい。彼らは法よりもモラルを重んじ、モラルによって行動するのでしょう。これは多くの日本人と違うところだと思います。
 私は社会学の専門家ではありませんが、以下のように感じています。米国の下町は汚い。下町の住民にごみを捨てるなというモラルは期待できません。しかし、郊外の公園などは日本よりきれいだと思います。西洋キリスト教社会では、上層部の人はモラルがあり、求められている。日本人は、平均的には勤勉で不道徳ではないが、上層部は米国に劣ると思います。これは、学校教育としてモラルを学んでいないからだと私は思います。
 それでも、返却するという確信はありませんでした(アニータ事件を連想した)。すべての外国投資家が返却するかはわかりませんが(これもぜひ報道してほしい)、UBSの道徳は私の西洋社会観を改めました。賞賛に値します
 日本では違法ではないとして返却に応じない人がいる。しかし、日本人は「恥」を嫌います。悪い評判が立つことはしないでしょう。ゲーム理論でも、このような評判が立つ社会では協力的な社会が実現しやすいという結果が出ていると思います*1。悪い評判無しに高いモラルが進化するという結果は、おそらく出ていないでしょう。
 日本の報道機関の責任は重大です。今回の場合は、東証の計算機システムがうまく機能せず、5重のミスを繰り返したのですから、買い手のモラルに期待するしかありません。UBSの実名を出しながら、他の買い手の実名を出さない「報道の倫理観」はないと私は思います。ぜひ、実名を出していただきたいと思います。そして、返却したものは賞賛すべきです。
 もし、報道機関もモラルの必要性を自覚していないとすれば、日本の社会はうまく機能しないと思います。今回の一連の経緯は、報道機関に少し危うさを感じました。
 日経新聞の上記の「5重のミス」に、私はさらに二つのミスを加えます。「マスコミが買い手の責任を問うのが遅かったこと」と「政府が決済前に何も動かなかったこと」。 自主返還を求める動きについては、私の公開書簡の後ではありますが、報道機関は大きな役割を果たし【つつある】と思います。

*1:進化生態学者レヴィン「持続不可能性」と彼の一連の研究。政治学者アクセルロッド「つきあい方の科学」(松田訳)と彼の一連の研究