生態学会自由集会「保全の現場からみたレッドリスト・・」への意見

Date: Thu, 3 Apr 2008 14:14:07 +0900
 生態学会自由集会での西廣さんのスライド「維管束植物レッドリストでの評価における課題」、ありがとうございました。当日聞いていないので、スライドだけみて誤解していたらお許し下さい。
 植物RDBの評価手法の問題点として以下3点を挙げています。(1)「個体数」の評価手法の問題(2)シミュレーション手法の問題(3)保全努力により回復した種の問題 順を追って私の考えを述べます。
(1)「個体数」の評価手法の問題 では VUからNTになったアサザを例に挙げ、ラメットは多いが、ジェネットは少ないので、ジェネット単位ならVUだろうと言うご意見と思います。たしかに、海草などではラメットでは評価できないことは我々も議論していましたが、藻場数なら議論できます。個体数が多いGrid(2次メッシュ)が少数の場合、現行手法でも絶滅リスクはそれなりに高く評価されます。【】いずれにしても、最終的には専門委員会のExpert judgeを経たものです。
(2)シミュレーション手法の問題 としては 10年より昔の事象も考慮すべき、メッシュ数が少ない種の問題(エキサイゼリ)、100年後の絶滅確率が低い場合でも分布メッシュ数はわずか(な種は載せるべき)という3点があります。
 20年前の減少率も使うべきだと言うのはよく理解できます。今回、減少率カテゴリーも調査方法も全く違ってしまったのでできませんでしたが、やり方次第です(たとえば、乱数を引いて、10年前の減少率と最新の減少率分布を使い分ければよい)。プログラムは煩雑で宗田君にお願いできませんでしたが、今後私のほうでも検討させていただきます。
 メッシュ数が少ない種については、架空の絶滅Gridを一つ加えるという「ベイズ法」を使って【います】。ただし、増えているところもあり、NTとなったのでしょう。特に減少率情報の少ないものについては計算結果どおりに判定していない場合も多々あります。これらは【専門委員会の】ExpertJudgeを経たものです。増加1Gridがなければ結果が変わるというのは当然です。増加と言う報告がArtifactかどうかは委員会判断すべきですが、増加が確かなら、その結果を無視すべきだとは思いません。
 絶滅確率が低くても数が激減するものは載せるべきだというのは、現在でもそのようにしています(ACD判定と呼んでいます)。ただし、エキサイゼリは現在数万株、アサザもラメットでは多いので、この基準にかからなかったと推測します。海草でジェネット50以下はCRなどとするのは、賛成できません。
(3)保全努力により回復した種の問題
 これについてはIUCN基準でも1994年基準ではcd(保全依存)と言うカテゴリーがありましたが、2001年改定時になくなり、保全努力で維持されているものもそのまま判定すべきだと言う方針になりました。今回もこの方針に沿っていると理解しています。環境省も書いているとおり、NTとなっても保全努力は続けるべきであり、現実にさまざまな環境影響評価ではNT種も調査・評価していると思います。
 今回の植物RDB改訂で、絶滅危惧種の数はかなり減るだろうと私は思っていました。2000年版の掲載種についてはかなり格下げできましたが、新たに加わった種が多く、結果的に掲載種は増えました。NTも含めると、保全対象は今までより広がったと見るべきでしょう。今までの保全種だけでなく、むしろ新たな保全対象を重視すべきだと思います。
 アメリカでは、ハクトウワシハヤブサ類が外れると保護団体が祝福します。そして、新たな対象の保護活動を始めます。それでよいのではないでしょうか。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/1999/raptor.html

?生態学的・遺伝学的研究成果を反映させる仕組みの確保(たとえば「仮リストの公表→情報募集」プロセス)【という】西廣さんの提案はよいと思います。矢原さんの仕事が膨大になるでしょうが、今後は、矢原さんの負荷が過剰とならない、何らかの方法が必要になることでしょう。
?他の手法・基準と組み合わせた評価 というのは歓迎ですが、すべての種に適用できる方法ではありません。詳しくわかっている種については、独自にPVAなどを行えばよいでしょう。それは今までもそのつもりだったと思います。
 専門委員会の最終判断があるという点は、植物RDBの重要な点です。
 【今年の】植物学会でも、このような議論が進められたら良いと思います。