生物多様性国家戦略と沿岸生態系

hymatsuda2009-03-06

水産海洋、Jeconet各位

国連大高等研が進めているミレニアム生態系評価の里山里海Sub-Global Assessmentの報告書作成に関与している松田です。
 生物多様性国家戦略では、多様性喪失要因を3つの危機(Over-use, Under- use, 外来種や汚染などの撹乱)と気候変動に分けて議論しています。里山で は、耕作放棄、森林管理放棄(それに野生動物との軋轢)など、さまざまな Under-useが危機の要因とみなされていると思います。  それでは里海あるいは沿岸生態系はどうでしょうか?あまり、そのような危機 は思い当たらないのですが、皆さんご意見ありましたらお願いします。

 干潟の調整サービスの価値はきわめて高く計上されています。漁獲高より1桁 以上高いはずです。(それは、下記のように下水処理場の費用に換算していると 聞いた覚えがあります)  だからといって、漁業を放棄したらその機能がなくなるとは聞いていません。 むしろ、干潟をつぶすOveruseの危機でしょう。

Date: Fri, 6 Mar 2009 16:55:26 +0900
 しいていえるのは、魚垣(ながき)のような例ですが、それが余り多用されなくなったのはかなり昔の生物多様性が問題になる以前のことでしょう(今から多様性をはぐくむ取り組みにはよいとしても)。
 そもそも、海にはそれほど絶滅危惧種は多くないし、里海に絶滅危惧種が多数残されているという状況ではないと思います(ジュゴンがいれば別でしょうが)。トドは漁場に来ますけど、共存とはいえない。
 里海という活動自体が悪いとは私は思いませんが、Underuseというよりは、Sustainable useの取り組みとして理解できると思います。(里山もそうだと思う人もいますけど、国家戦略ではUnderuseと見なしています)
 もう少し、世論を見守ろうと思います。Jeconetで異論がでなければ、専門家の世論は固まるでしょう。

Date: Friday, March 06, 2009 6:24 PM
 干潟の調整サービスの価値はきわめて高く計上されています。漁獲高より1桁以上高いはずです。(それは、下記のように下水処理場の費用に換算していると聞いた覚えがあります)
 だからといって、漁業を放棄したらその機能がなくなるとは聞いていません。むしろ、干潟をつぶすOveruseの危機でしょう。


Date: Sun, 08 Mar 2009 05:42:56 +0900
ある方から、以下のご意見をいただきました(表現は一部改変)。(ありがとうございます)

 我が国の沿岸部に成立している海岸林は、北海道や沖縄を除けばクロマツの海岸林であり、人工的に造成された樹林ですが、それぞれの地域で住民が潮風や飛砂と戦いながら苦労の末に造成されたもので、むしろ「白砂青松」という我が国の代表的な文化遺産とも言えるかもしれない。それらの多くがマツ枯れ被害を受け、衰退し見る影もなくなっています。直接の原因はマツノザイセンチュウとされているが、それらが蔓延する原因はマツ林内での落ち葉かきなど、人の生活とマツ林との乖離の結果、林内の土壌が貧栄養状態から富栄養状態になったことや菌根相などの変化も考えられている。静岡県遠州灘海岸林はマツ枯れの激甚地だが、その後の植生回復が進まず、一部で広葉樹林化が進んでいる。神奈川県湘南海岸では、マツ枯れに備えてクロマツ林の樹下に常緑広葉樹を積極的に導入している。マツ枯れ後の海岸林の姿をどうしたら良いのか、明快な答えが出ていない。このように海岸林の多くは、ある意味では里山と同じ運命をたどっている。

 松枯れの直接要因はご指摘通り外来種であり、それに対する松林の耐性を損なう理由の一つが「人の生活とマツ林の乖離」(Underuse)というご指摘です。これは沿岸だけでなく、里山でも成り立つ構図だと思いますが、耐性を損なう理由には酸性雨なども指摘されていると思います(要文献調査)。
 マツ自体が絶滅危惧種として緊急に保全すべき対象なら別ですが、そこまでは思いません(IUCN基準Aに照らせば該当するといわれますが、環境省RDBでは個体数を加味して判断しており、準絶滅危惧にさえ入れていません)。たしかにマツタケ生産量は減っていますが、里海の例とは言えないでしょう。松枯れ自体は、落ち葉かきなどの人間活動を回復させることより(はたして、それが松枯れ防止にどれだけの効果をもつでしょうか)、OveruseとPollutionが主因だと私は思います。
 同じ意味で、里山のUnderuseの事例と呼ばれていることも、一つ一つ改めて検証が必要かもしれません。UnderuseがOveruseより重視される風潮には注意が必要と思います。しかし、里山の場合、具体的にUnderuseの例があげられると思います。耕作放棄などによる里山周辺に残された多様性喪失とは原因の重みが異なると思います。
 皆さんのご意見はいかがでしょうか?今までいただいた個人返信では、里海にUnderuseの要因は重要でないという意見が支配的です。私もそう思います。