生態学会「日本国土の超長期ビジョン−中山間地問題」討論の続き

Date: Tue, 18 Mar 2008 01:18:36 +0900  
横浜国大COE各位 シンポジウム講演者等各位
 日本生態学会福岡大会S15「日本国土の超長期ビジョン−中山間地問題」に満員御礼の多数のかたが参加されました。COEメンバーとして講演いただいた嘉田さん、酒井さん(協力者)、ありがとうございました。総合討論の時間が確保できなかったため、この場で討論を続けさせていただきます。
 シンポジウムの趣旨説明、講演者、題目は下記サイトにあります。
http://gcoe.eis.ynu.ac.jp/Japanese/GCOE/ESJ08S007.html
松田の論点

  1. 里山が大切だとしても、お金をかけてすべての里山を維持することは不可能ではないか?実現可能な政策を提案すべきである。
  2. 放棄しても、ダムなども撤去すれば自然は長期的には回復するのではないか?その場合は、下流域を含めた災害対策が必要で、撤退は流域単位で行うべきである。
  3. 里山は経済的に自立できる形で維持すべきである。

 大住さんは里山保全の根拠として、森林管理・林業技術の立場から里山は広大(国土の20〜30%)であり様々な資源・機能としての今日的価値(生態系サービス)がありえること、急速な変化への予防原則 、心情的意義 の3点を挙げられました。
 酒井さんは第3次生物多様性国家戦略にある「100年かけて100年前の自然に戻すというが、100年前の里山が良かったのか」を問い直され、今後の提案として文化的サービスと供給サービスの場を分けて考えるべきだと指摘されました。また、MAの文脈にのっとって里山の生態系サービスを列挙し、【現状放置シナリオ】【里地里山復元シナリオ】【流域撤退シナリオ】【中山間地再編シナリオ】の4つのシナリオを提案されました。
 嘉田さんの話の中では、地滑り防止工事予算で棚田を2000年維持できるという話、「自然産業」「水源の里」という提案があり、農林業の新たな担い手を確保するために=奉仕と企業CSRの活用を提案されました。
 根本さんは詳細に里山管理地と放棄地の多様性を具体的に比べていただきました。大変貴重な結果だと思います。水田・雑木林の管理放棄は多様性を失うということがよくわかりました。放棄するならば、やはり、ダムなどの撤去も多様性を回復するためには同時に必要だと思います。多様性の維持機構には、地形の動態も含めるべきでしょう。それでも回復しない多様性があると思いますので、どのような「撤退」により何が失われるか、どの程度の「維持労力」でどこまで保全できるかの議論をしたいところです。
 島谷幸宏さんには中山間地の災害は100年に一度で水害3年に一度水害にあう平地より災害頻度が低く、町村道は地形に即して作るために被災しにくいこと、最大の問題は孤立に耐えること、地滑り地帯の生産性と多様性の重要性を指摘していただきました。下流氾濫原の都市に住むという発想の転換が必要かもしれないと思いました。
 鈴木渉さんには生物多様性国家戦略と国連ミレニアム生態系評価(MA)の取り組みを紹介いただきました。2010年生物多様性条約締約国会議までに、日本の生物多様性(の豊かさ)をデータで示すことが重要だと感じました。シナリオごとの将来予測を行う点ですが、横浜国大COEでは、アジア視点の第5のシナリオを考え、それに基づく将来予測を行うことを目指しています。
 中村浩二さんにはMAの里山里海サブグローバル評価の取り組みを紹介いただきました。MAが自然生態系を単位に評価しているのに対して、農地など二次的自然を単位に生態系評価を行うというアイデアを伺いました。また、日本ではすでに行政に蓄積したデータがあるので、それを活用すること、国連大学に滞在するPDなどによる国際的執筆陣により世界に説明する体制を説明いただきました。
 深町加津枝さんには里山を対象とした丹後国定公園構想を説明いただきました。多くの写真によって過去と現在の風景を比較していただきました。また、淀川流域委員会の経験から、合意形成は慎重に行うべきだとご意見をいただきました。
 梶光一さんには江戸時代以前からの野生鳥獣と人間の関係を踏まえて、放棄された中山間地の害獣問題を紹介いただきました。その対策として、道州制に基づく資源としての野生鳥獣の活用への期待を伺いました。
 以上のお話を伺っても、個人的には「流域撤退論」は変わりません。上流の里山を維持することは下流住民の直接の利益であり、嘉田さんのいう「水源の里」にも通じると思います(流域を超えて水道を引けば、流域が人工的に増えることになります。これを本学COEでは拡大流域圏と呼んでいます)。
 皆さんは「流域撤退論」に対して異論があるかもしれません。
 大住さんの主張が社会的に力を持つには、やはり、急速な変化によって失われると推測されるものを具体的に列挙する必要があると思います。その証明が不十分でも対策を取るべきであるということは予防原則によって支持され得ると思いますが、やはり、具体的な悪影響の列挙が必要だと思います。
 私は管理可能な場所まで撤退すべきだと述べているのではありません。すべてを管理することが予算上不可能ならば、それが現実的な選択だろうと述べているのです。むしろ、撤退せざるを得ない流域を特定すれば、利害関係者の努力を促し、活路が見えてくるかもしれません。下流域の人口が多い地域は資金を得られるかもしれませんが、下流域の人口が少ない地域は厳しいでしょう。
 撤退する流域のダムの撤去は公共事業で行うとして、上流域の里山活動の維持は下流域などのステークホルダーが担うことをまず検討すべきだと思います。その費用負担は嘉田さんのような試算をすればある程度可能でしょう。
 皆さんのご意見をお待ちしています。