海岸保全と流域土砂管理

Date: Sun, 10 Jun 2007 10:14:56 +0900*1

松田さん
 逸見@熊本大沿岸域センターです。

1.ダム堆砂を海岸まで人間が運ぶのはコストや時間や輸送による副次的な環境問題のこともあり、自然流下が基本とされています。一方、侵食している海岸からすれば、ダムから砂が河川経由で自然に下りてくるまで待てない、というのが実情です。
2.海岸への河川からの土砂供給に対して、人為が関与する場合、現実的なのは、河道の維持や拡幅で発生する掘削土砂の利用です。これはまた河川生態系保全の観点から意見があると思いますが、観測をしながらであれば、順応的管理として十分現実的に機能する手法だと思います。
3.「海岸だけで対処」は、養浜のことかもしれませんが、それは①系外からの購入土砂の使用の場合、②海域での航路維持で発生する浚渫土砂の利用のどちらかかと思います。①については、資金が豊富な地域の海岸が、国内外の自然資源を売るしかない状況になった海域から購入する場合が多いです。

1.有明海や隣接する八代海、あるいは博多湾で泥化・ヘドロ化の問題に少し関わっていますが、最も一般的に使われる方法は、まさに「海岸だけで対処」の覆砂と作澪です。 覆砂というのは、【】購入土砂や浚渫土砂で養浜するもの、作澪は干潟や浅海域に水路を掘って流れを確保し、泥が海岸付近に貯まらないようにする方法です。
 ダムに関してですが、八代海では、撤去予定の荒瀬ダム(球磨川)に貯まった砂泥を、実験的に河口の金剛干潟に移しています。しかし、今後、本格的にダムに貯まった砂泥を海域に移送できるかは疑問です。
 ダムに貯まった砂泥には落ち葉などが混じって富栄養化しており、赤潮の引き金になりかねません。また、清野さんの指摘のように、そもそもコストの問題があります。
 河川の土砂供給確保のためには、ダムや砂防ダムを何とかしないといけないのですが、球磨川では川辺川ダムの計画が進んでいるように、なかなかうまくいきません。
 九州・沖縄では河川の掘削土砂・浚渫土砂の有効利用というのは、あまり聞
いたことがありません。むしろ、河口や海域の航路浚渫土砂の処理が、大きな問題になりつつあります。

2. 例えば、有明海八代海では、浚渫土砂の多くは有効利用の難しい細かな泥で、結局は埋め立てという形で処理するしかありません。港や航路(小さな漁港も含みます)は数年に1度は浚渫しないと泥で埋まってしまうので、各地で「浚渫土砂の処理のための埋め立て」が進んでいます。
 さすがに大規模な埋め立ては手続きも難しいので、小規模な海岸部の埋め立てが各地で進んでおり、その結果、海岸部の塩性湿地とそこに住む底生動物が消滅していま
す。塩性湿地とそこに生息する底生動物の激減は、沿岸域の生物多様性関連では、最優先課題になると思います。
 なお、現在進行している沖縄の泡瀬干潟の埋め立ても、浚渫土砂の処理が最大の目的です。

3.系外の土砂の購入には、まさにディープな世界です。有明海でも、国の資金援助を受けることのできる湾奥部の漁民が、湾口部や湾外の土砂を購入し、覆砂しています。有明海で自然資源を売るしかない状況というのは、漁協の破綻などですが、同じ有明海の中で、湾奥部を保全するために湾口部を破壊するというのはとんでもない話です。
 なお、湾口部の粗い砂からなる海底にはナメクジウオなどの希少種が多いのですが、瀬戸内海と同じように採砂によって激減しています。
 なお、海底で採った砂は、覆砂より土木工事に使われる量が断然多いのですが、河川の砂を取り尽くしたのに加え、規制が厳しくなったために、採砂が川でなく海で行われるようになったという話です。
 私は、動物ベントスの生態が専門なので、一部誤解があるかもしれません。
 皆さんのコメントをお待ちします。
(以上)

*1:逸見さんからのML投書を許可を得て転載します