知床をMAB/BRに!!

Date: Sat, 25 Jul 2009 16:19:29 +0900 (JST)
 7月23日の知床世界遺産科学委員会では、世界遺産とMAB/BRの二重登録に大変前向きな意見をいただき、ありがとうございます。
 知床をMAB/BRに登録するには3つの利点があると思います
1.隣接地域(BRでいう移行帯)での取り組みを世界遺産・BRの取り組みの一環として、統一的に扱いやすくなる
2.もともと、知床では登録地で沿岸漁業が行われるなど、MABの理念により合致していると考えられる。保全と持続可能な利用の取り組みを統一して扱うという日本の自然保護の取り組みを世界に説明することができる。(里山Initiativeの取り組みでも、MABを位置づけて然るべきだと私は思います)
3. 地域振興の利益と、核心地域の保全を結びつけ、政府資金のみに頼らず、地元の取り組みとしての世界遺産の維持の取り組みが進められる。

 知床をMAB/BRに登録する上で、いくつかの条件があるでしょう。最大の問題は【核心、緩衝地域を知床世界遺産登録地に定めている】Zoningです。
 まず、事実経緯を踏まえるべきです。我々はMABの概念を援用し、その核心地域と緩衝地域を明記して遺産登録申請し、認められたのです。その後で、遺産条約のほうが、核心と緩衝と言う用語を使わないように変えたのであり、遺産条約の趣旨が「進化」したのです。
 我々の選ぶ道は、元の核心・緩衝地帯を設けた理念を継承して知床の自然の価値を認めるのか、遺産条約の変化に応じて設計図を変えるのかと言うことです。無論、両者は必ずしも矛盾するとは限りません。世界遺産とMABの両方の価値を知床で守ることも可能です。しかし、緩衝地域は登録地の外に設けるという2008年決議に忠実に従うなら、地図の変更は避けられません。
 4つの解がありえると思います。
1)今までの経緯を最も忠実に守る解は、旧核心地域のみを登録地とするよう、登録地を縮小することです。その上で、MABに登録し、旧緩衝地帯のほか、現登録地の外側に移行帯を設ける。 私は、これが最もすっきりすると思います。
2)これと逆なのは、登録地全体を核心地域のように扱い、その外側に新たに緩衝地帯を設けると言うものです。もともと、核心・緩衝と言う図面を明記して申請し、登録されたのですから、その後の決議に従って、登録地の地図だけを変えずに考え方のほうをを変えると言うのは、合理的ではないでしょう。登録地と言う図面は、それをどのように扱うかも含めて議論されたものです。向こうの考えが変わったために、旧緩衝地域を核心地域に機械的にかえると言うのは現場を見た意見とは思いません(もともとZoningが間違っていたと言うなら別ですが)。また、地元の合意も踏みにじるものだと思います。
3)最後の解は、世界遺産としての地図は変えず、呼称も使わない。しかし、核心・緩衝と言うZoningは我々がこの場所の自然を守る上で最適と考えたものだから、実質的にはその理念に概ね沿って考える。その上で、その外側(遺産登録地外)にTransition areaを設け、人間活動の場とする。そして、登録時のZoningに最も相応しいMABに登録し、MABの中でこのZoningを明記する。
4)実質的に3と同じことをするのだが、MABに登録すると矛盾が目立つので、MABには登録しないで進める。
 3の場合は世界遺産の定期審査の際に矛盾を指摘される可能性がありますが、その場合には1の解(登録地の縮小)を行うことになるなら、登録時には認めていたのですから、強くは言われないと思います。

 外側に新たに移行帯を設けるということは、新たに保護地域を広げるという意味ではありません。むしろ、地域経済の活性化を図るという新たな知床(核心・緩衝地域)の目的が明確になるということです。
 上記の議論(核心・緩衝地域が遺産登録されていること)が周知されるほど、知床は世界遺産よりもむしろMABに相応しいことが明確になるはずです。だからといって、世界遺産から外す必要はありません。世界無二の場所のみ登録し、人間の利用と自然保護の関係が明記されていないという世界遺産条約【】は、20年も経てば新たな風が吹くかもしれません。それまで、MABの理念と制度も活用しつつ、世界遺産の取り組みを進めていけばよいと思います。
 MAB/BRと二重登録した場合、世界遺産とMABは一体のものとして管理運営する必要があります。なぜなら、もとの核心・緩衝地帯と言う概念はMABの概念であり、それを生かすならば、両者は不可分のものだからです。
 要するに、2005年に我々が核心・緩衝地帯とZoningした地図を示して遺産登録が認められ、2008年の世界遺産条約で、核心・緩衝と言う概念を用いないように決議された経緯から、我々は、MABに登録することで、我々の今までの取り組みを最も合理的に継承発展させることができるといえるでしょう。