トド採捕枠を増やすことは、本当に漁民のためなのか?マグロ問題の教訓

 漁業被害が深刻なトドの採捕枠を増やしたいという地元漁民と議員の言うことはわかるが、トドの採捕枠は国際的な1980年代まで急激に減っていたトドの保全運動を受けて決められた国際問題である。きちんとした管理体制なしに、まして有識者検討会の合意を経ずに年度途中に行政判断で採捕枠を増やせば、国際的な非難を浴び、へたをすれば今以上に獲れなくなるだろう。
 そのために、PBR(Potential Biological Removal)という米国の採捕枠基準を用いて国際的に説明できる採捕枠を決めてきた。しかし、PBRには混獲数も含めねばならない。その混獲数が分からないでは、国際的に説明できない。採捕枠を増やす前に、およその混獲数が推定できるしっかりした体制作りが先決だ。
 私がマグロ問題に関わり始めた頃、反捕鯨運動の次の標的はマグロといわれた。漁業の否定ではなく、持続可能な利用と保全の両立を図る日本の立場を守ることが重要だった。しかし、今年、大西洋クロマグロワシントン条約の附属書Iに掲載されようとしている。それに対して、水産庁は諦めて、敗北を覚悟しているようである。漁民の味方のフリをして、国際的に説明できる体制を整えず、結局すべてを失っては、漁民のためにはならない。トドも同じことだ。
 マグロ問題の決定的な弱点は、2年ほど前に暴露された漁獲量の過少申告だった。トドの混獲数を集約できる体制を作ることの重要性を、よく認識してもらいたい。マグロは遠洋漁業や外国に進出した畜養漁業者が困るが、トドで負けたら、困るのは零細沿岸漁民である。