科学委員会:知床と屋久島の違い

Date: Wed, 1 Aug 2012 08:28:00 +0900
屋久島と】知床の科学委員を兼ねる者として、意見を申します。
? 科学委員会の位置づけ
 知床では、登録の際にIUCNから(海域やダムなどに意見する)書簡が2回届き、それに科学委員会と地元が答えた経緯を、IUCNが「ボトムアップの取り組みは他の遺産のモデル」と評価され、国際コモンズ学会が「日本の沿岸漁業の共同管理」として世界のインパクトストーリ―に選びました。このたび、海域WGの桜井座長が環境保全功労賞を受賞します。
 それを成功ととらえ、屋久島を含めた自然遺産に科学委員会が設立されたと思います。http://www.env.go.jp/guide/budget/h21/h21-gaiyo/085.pdf
 その「成功」の基本は、「世界遺産という世界標準を満たしつつ、地元が合意できる解を示した」ということに尽きると私は思います。ただし、知床といえどもそれははじめから完全なものではなく、登録直後の2005年6月2日読売新聞は「知床が遺産に登録されると、(遺産条約会議からの勧告によって)漁業規制がどんどん膨れあがるのではないかという羅臼の漁民の心配が、現実となった」と報道しています。その後も、様々な外圧がありましたが、科学委員会は地域に必要な措置を求めつつ、外圧に対しては地元の盾となって世界に説明してきたつもりです。
 この6月の世界遺産会議でも出てきた(知床の)「ダム撤去」決議案についても、「ダムが守る防災対象がなくなれば、ダムも撤去できる」という気長な(しかし当然の)方針を掲げ、その条件がそろいつつあるところです。
 もちろん、知床でも、科学委員(少なくとも私)の提案で、実現することは半分以下といっても過言ではありません。我々はあくまで「助言」する立場であり、命令や審査する立場ではありません。最終判断は政治(行政)が行うことになります。
 ただ、それは、行政判断を追認することだけが期待されているという意味ではありません。もちろん、「諮問」された以外のことまで意見を述べる立場でもありません。
 シカの分布が連続している限りにおいて、当然、遺産地域外のことも考慮することになるでしょう。(知床クマ管理方針では、遺産地域のクマの行動圏内にある標津町も含めた管理方針を定めました)もちろん、その場合に、関係諸機関などとの連携が必要なことは、中島さんがおっしゃる通りです。
?利用に関するワーキングの設置について
 屋久島でのこの経緯はよくわからないのですが、知床でも利用適正協議会という科学委員会とは別の合意形成の場が先にあります。しばらく経ってから、エコツーリズムWGが科学委員会に設置され、協議会との連携を図っていますが、当然のことながら、【】科学委員会が「上位組織」というわけでもありません。
 もちろん、知床の科学委員会が【】地域(のMajority)に信用されるということは、彼らの期待にこたえているということで、それははじめからそうだったわけではないし、まして対立している中からは信用は生まれてこないでしょう。
 決して、知床でも地域に迎合しているつもりはありません。当初、遺産内のシカは捕獲しないという意見が大勢で、捕獲することは地域の合意を得られないだろうと懸念されました。しかし、行政からも捕獲を支持する意見があり、今年からは知床岬に大規模柵が設置され、百平米運動地でも大量捕獲が始まっています。それでも今まで時間がかかりました。そして、ダムの件もそうですが、科学委員会の主張も、現実を見ながらだいぶ変わってきています。
 ぜひ、【屋久島でも】地域の関係者にお願いして、協議会に科学委員も傍聴させていただき(正式メンバーの必要はない)、可能ならば意見を述べさせていただければよいでしょう。外部の科学者は相手を説得できればよいのですから、投票権はいらないでしょう。
 知床でも、最初は協議会を座長が傍聴するところから始まったと思います。やがて、地域の期待と信頼を得れば、相手のほうから招いていただけるでしょう。