屋久島世界遺産のシカ捕獲問題

送信日時: 2017年6月11日 7:01
 世界遺産地域のシカ管理について、WEBRONZA用の原稿を書きました。
 拙稿の論点は、屋久島でもシカの個体数調整が可能であるというものです。ただし、そうせねばいけないとは書いていません。あくまでも社会の選択です。以下、補足です。添付【=省略】は、知床で密度操作実験をIUCN視察団に説明したときの資料です。
 知床科学委員会では2005年に世界遺産地域での個体数調整を行うことで合意しました。その後、百平米運動でも方針を転換いただきました。科学委員会では、放置したときの植生影響が不可逆的である懸念があるため、予防原則により密度調整を行うというものでした(添付のP26)。影響が不可逆的だと断定してはいませんが、逆に可逆的とも断定できませんでした。過去200年で最大の影響とはいえたが、過去2000年では根拠が足りなかった(添付のP27)。(当時は、早晩決着がつくと思っていたが、結局この調査は明確な回答が出ていない)。

 知床の場合、原生自然にはオオカミ(と先住民)がいました。知床の面積ではオオカミ再導入が非現実的(北海道全体での社会合意が必要)な以上、シカの食害を防ぐための人為介入を、ユネスコ・IUCN視察団も否定しませんでした。
 屋久島の場合、もともと天敵不在で、狩猟者がシカを捕獲していたと考えられます。狩猟者なくして屋久島の自然が成立しないとすれば、それは原生自然ではなく、世界遺産制度の趣旨に合わないといわれるかもしれません(世界遺産委員会で、そういわれるとは思いませんが)。しかし、もともと狩猟者がいて成立している自然ならば、知床以上に、個体数調整が必要といえるはずです。
 屋久島を原生状態に「新たに創造する」という手もないわけではありません。固有種が食害にあうことは間違いないが、シカが食べられない場所に生えていれば、完全になくなる固有種は限られているかもしれません。天敵不在の生態系を創造したいという発想が私には理解できませんが、それも社会の選択でしょう。いっそのこと、イエローストーンのようにオオカミを導入する手もないわけではない(島民の合意)。それならば、猟犬を放し飼いにするほうが現実的でしょう(法改正が必要かもしれないが)。そのほうが昔の状態に近いと思います。
 いずれにしても、科学者が決めるものではないでしょう。
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