北海道ヒグマ保護管理検討会における松田の発言

平成30年度 北海道ヒグマ保護管理検討会 議事概要(案)

 日時:平成31年3月14日(木)

標記検討会での松田の発言の一部を紹介します(道庁サイト)。

・(P13)むしろ、まだ【クマの】資源価値が生じていない段階で今後の利用も含めた計画をしっかり練っておくとすごくやりやすいのではないか。獲り過ぎが心配だと二十何年か前はシカでも言われていました。でも、結局、そういう話にならなくて、いまだに減らないことのほうが問題です。数々の統計を見ても、農林業被害は、デントコーンがふえていますが、ほかは現状維持です。本来は、現状維持でいいというものではないはずです。ちゃんと対策を立てるという目標を持ってやれる資料がかなり出ていると思いますので、むしろ、次の機会には個体数調整も視野に入れていいと僕も思います。

・(P17)問題個体数がわかっているというのはかなり貴重なことだと思います。世界的にも貴重ではないかと思います。問題個体のところで、段階0は少ないけれども、実は出没していない、見えていないところにも0はいっぱいいると理解すべきだと思います。その数がわからないから、全体の数がわからないということになると思うのですけれども、それで見たときに、全体として増えているところが多いというのは、何となくそうかと思いますが、気になるのは天塩・増毛だと思います。【天塩・増毛は】被害額で見ると桁が違って低いわけです。【】

・(P17)過去に絶滅していないとか、雄(の生息数)がマイナスにならないとか、いろいろな計算のシミュレーションの制約を入れてやることができると思いますが、【個体数推定のための捕獲数を入れた個体群動態シミュレーション結果を見ると、天塩・増毛以外の】ほかのところは大体割と納得できると思いますし、それであれば個体数調整をやって何も問題がないというかやるべきです。被害を増やさなければいいのではなく、減らしたっていいはずですし、それで北海道のヒグマの絶滅は全然心配する必要はないということになると思います。ただ、天塩・増毛が少し心配だということです。

・(P20)例えば鹿に比べて【個体数推定の】誤差幅が大きいかというと、そんなことはないのです。実は、捕獲数情報だけに基づくと【最低何頭いるかはある程度分かるが、個体数推定の上限については】青天井みたいになって決められなくて、道南のシカでも同じです。問題は、わからないと言いますけれども、わからないことによって方策が変わるところはそんなにないのです。強いて言えば、天塩・増毛と積丹・恵庭で、下限だと保護しなければいけないけれども、上限だと大幅な対策が必要というふうに変わります。それ以外は、絶滅の心配はなくて、むしろ被害対策で個体数管理をやって十分というふうに見えるわけです。

 これはエゾシカも同じで、とって減る傾向が出てきたら上限がわかるのです。それまではわからないというのがこのやり方です。【】例えばヘアトラップとかいろいろな別の方法で個体数推定をすることで比較すれば、より精度が高まるというふうにできると思います。

 ですから、なぜ環境省積丹・恵庭、天塩・増毛ではなく知床に【個体数推定の】予算をつけたのか、実は釈然としないです。本当は、四国とか【北海道では積丹・恵庭、天塩・増毛のような】絶滅の地域個体群でやるべきだと思うのです。だって、それによって政策ががらりと変わってしまうのですから、調べるべきなのです。それを言っても仕方がないのですけれども、今言ったように、不確実性があるから何をやっていいかわからないのではなく、不確実性があってもやるべきことが割とはっきりする部分と、【絶滅危惧個体群のように】実はそうでない部分があります。それをしっかり見きわめて考えるべきではないかと思います。

クマも個体数調整が必要では

Date: Mon, 15 Jul 2019 16:22:53 +0900

皆様,我々がスコラ論議を重ねている間に,事態はどんどん切迫しているように見えますが,皆さんはそうは考えていないのでしょうか。
 札幌市は政令指定都市ですから,独自の判断を下すこともあると思いますが,それ以外は道が主体的に考えねばならないと私は思います。そのための【ヒグマの】全道計画ではないでしょうか。森林公園はマラソン大会を中止するような場所。<地元では「自然公園だから」としゃくし定規に対応した道への不満が募る>【北海道新聞2019/7/15】というのはもっともだと思います。
 これから獲るとなっても,さて,市街地付近でどうやって獲るのでしょうか。

 そろそろ,シカと同じく,捕獲数の上限でなく,減らすための目標捕獲数を決めた個体数調整が必要だと私は思います。そのほうが,結局は,クマは人を避けるようになり(おそらく,トドがそうなりつつある),クマとヒトが共存できると期待します。
 【札幌市の個体群は積丹恵庭で、まだ環境省の絶滅危惧個体群でしたね。200-800頭という推定では保護すべきか個体数調整すべきかも不明確。】本来は絶滅危惧地域個体群解除と並行して進めたいが,昔,環境省絶滅危惧種の段階でゼニガタアザラシの試験捕獲を打ち出したこともある【】。ひょっとすると,環境省ゼニガタアザラシのように希少鳥獣保護管理計画(第3種)で引き取るかもしれませんが,それを待ってはいられないでしょう。道が打ち出さない限り,多分,環境省は動かないでしょう。

Adaptive management の訳語について

Date: Thu, 11 Jul 2019 15:39:25 +0900

【Adaptationの訳語は生物学でも統一されていない】

Adaptive Manamgenet(以下AM)を順応的管理と訳す件【矢原徹一さんのBlogでは「適応的」】ですが、実は生物学用語でもdark adaptationは暗順応と訳されていると思います。気候変動ではAdaptationを適応と訳していますが、AMは適応策だけに適用するものではありません。むしろ緩和策こそFeedback管理に相応しいでしょう。

 また、気候変動の緩和策適応策の用語法はむしろ特殊でしょう。環境保全措置でいうMitigation(緩和)策は、気候変動でいう適応策を含んでいると思います(これは訳語でなく、英語の問題です。日本ではこのミチテーションをしばしば代償措置≒適応策の意味で用いているが、本来は回避低減代償すべてを含むと考えるべきでしょう。しかし、代償を含むことは確かです)。【将来,英語の用語法も再整理される可能性があると思います。】
 ただし、将来は気候変動の用語法が他の環境用語に広がる可能性はあります。その場合でも、AMは適応策に限るものではありません(それでもAMを適応と訳すべきという人はいるでしょうが)。暗順応を暗適応に変えるなら、AMの訳語も再検討してよいと私は思います。私は定着している順応的管理を使わせていただきます*1

知床世界遺産シカ・クマWGへの意見

 WGの皆様
 今回、羅臼側の植生が一定の回復を見せているという声が多く聞かれました。シカの密度操作実験を主張した者として感無量です。当時は、シカを獲らないという選択肢も大いにあり得ました。どちらがよいとは言えませんが、運命は大きく違っていたと思います。
 3時間の会議だけで原案を大きく変更するのは無理でしょう。昔は事前事後にメールで深く議論を進めていました。第2回の会合で来年度方針を決めればよいかもしれませんが、去年の調査結果を見て来年度の計画を練るのでは対策が1年遅れます。【】事前に議論しておく体制がよいと思います。【】
 ヒグマについては、数々の手段、調査、評価項目を掲げながら、目標を達成できずむしろ悪化していることが明白です。環境省推進費を付けたことが新聞に載る「成果」ですが、解決しなければ何もなりません。人間の行動を制御し【ようとし】ても、クマの数は増え続け、人を恐れなくなる一方です(札幌でさえ似た状況【】ですが)。ゾーニングをしたのは、私としては、クマ優先の場所では効果的に人の行動を制御する手段を備え、人優占の場所では遠慮なくクマを駆除することで、両者の共存を図る意図でした。そのどちらもできていないし、クマ優先の場所が遺産地域を超えて広がっています。(これは地元社会が選択したことですが、このままでは解決しないと私は思います。それも自由ですが【】)
 2年ほど前まで知床財団はクマの追い払いに追われてパンク寸前と思っていましたが、初回出没個体の追い払いの後は、駆除目的の出動に限定してよいかもしれません。繰り返し追い払っても結局は人慣れが続いて駆除しています。(その対応に、ゾーンの差があるか、今回はよくわかりませんでしたが)知床では「順応的管理」という言葉がほとんど聞かれなくなりましたが、本来クマは総個体数と問題個体数の増減により人慣れだけでも駆除するか、問題個体も学習放獣を目指すかなどの対応を変えるつもりでした。そのために、鹿と異なり総個体数だけでなく問題個体数のモニタリングも必要と主張し、道南でその数字が上がるようになった。知床でもできると思いますが、管理計画に書き込まれてはいません。

 【知床】岬は当初から【シカの生息】数を激減させるという大成果を収めました。【】岬の植生(特に稚樹更新)の目標がなお未達成というのはわかりますが、その意味では現在の方策がさらに効果を上げているとは言えません。2年ほど(あるいは1年)銃猟か(と)罠を辞める手もあると私も思います。周囲から移入してくる分まで岬で捕獲し続けるという(近畿のカワウの竹生島のような)状況ならそうは申しませんが、岬にいる集団の自然増加数【分を獲って】を減らすのに一進一退の状況です。
 有効活用を推進することに賛成ですが、将来密度を下げた時に、捕獲数も減る、あるいは雄中心の捕獲が必要になる。その時にどれくらい利用できるかを数字で理解して進めていただきたい。それがなければ、今から乱獲の心配をしなければならなくなります。
 狩猟に頼るのは、残念ながら現状では誤射事故の危険があると言わざるを得ません。【】その意味では、知床財団の存在は極めて貴重だと思います。その発展が、日本全体の自然公園管理の命運を握っているとさえ思っています。

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横浜国立大学教授 場所 横浜国立大学教育文化ホール  8月9日10:30-17:00

気候変動対策より国立公園の景観が優先される環境省の政策

Date: Fri, 14 Jun 2019 09:48:18 +0900

2015年の宇久島風力発電事業の環境大臣意見,大いに参考になりました。
 本当に世界文化遺産の登録に支障がありえるかは【わかりませんが】,さすがに世界文化遺産からの景観を理由に取りやめとは言っていません(調べるのは当然と思います)。

 いずれにしても、国立公園の景観を理由に(なるべく邪魔にならないように立地を考慮せよでなく)取りやめのみを勧告するということは、環境大臣にとって、少なくともこの場所では、気候変動対策の風車よりこの国立公園の眺めが重要と判断したと読めます。騒音,近隣住居への風車の影,動植物への影響については「配置の変更又は設置の取りやめにより」とありますので,景観への影響への突出度がわかります。
 気候変動問題は環境問題の最重要課題と言われ,2度または1.5度以上の気温上昇を防ぐためにあらゆる方策をとることが国際的に勧められていることと,あまりに認識に差があると言わざるを得ません。
 たとえばドイツでは国立公園の周辺一面に風車が立つ風景は、最近では普通だと思います。【】

辺野古のアジサシ類について

Date: Sun, 9 Jun 2019 11:05:45 +0900

以下の記事にあるアジサシ「類」の繁殖場の件
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/426606 沖縄タイムス6/1見出し「準絶滅危惧種アジサシの繁殖地 沖縄防衛局が営巣防止ネット 辺野古の新基地建設現場 市民ら批判「巣作り奪う」」(冒頭しか読めないが)

 このような対応は,下記のアジサシ類への事後調査に沿って進めているはずです。工事【の】影響をすべて回避するとは書いていないと思いますが、むしろ工事関係者も繁殖期に近づかないように注意すると書いてあります。ネットをかけるような場合は,専門家の助言を得て進めるはずです。*1

 アジサシ類へのパブコメ対応を以下に3つ示します(ほかにもある)。最後の(3)は個体群の存続というもので、生息地がなくなることは認めている(②)。(2)は繁殖場所に対して工事関係者が配慮するということですね(③、つまり配慮を追加した)。(1コ)についてだが、事後調査p.8-13に書いてあるのは個体数が減ったら対応するというもの(これは繁殖場を減らさないということではない)、p.8-14は騒音調査の内容、p.8-15~17は結局は個体数が減らないようにすると読めますが、必要な対応は専門家と相談すると読めます。

 (報道では准絶滅危惧のアジサシとありますが)たとえばコアジサシとすれば環境省では絶滅危惧II類です。新聞記事見出しとその写真を見る限り、アジサシ類自身の営巣を防止しているように見えます。繁殖が天敵等によって自然に失敗させるのまで防げということはないが、営巣場所にネットをかけるという「保全措置」は聞いたことがありません。下記の環境省保全・配慮指針にもそのような記述はないと思います。

******補正書の記述********************
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukasyohosei/hyoukasyohosei.html に補正書の一覧があります。
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukasyohosei/160.pdf
 このp.6-19-2-2に地図があります。
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukasyohosei/161.pdf
が補正書のアジサシ類部分(9-1章)。知事意見等への対応が以下(12章)
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukasyohosei/192.pdf ちなみに解答欄の右側の数字は①は説明を加筆する、②は追加調査を行う、③は保全措置を追加する、④は今後事後調査で対応するというもの(p.12-2)
 そこに記載されている事後調査の内容は以下の8章です。
https://www.mod.go.jp/rdb/okinawa/07oshirase/chotatsu/hyoukasyohosei/188.pdf

知事意見→その対応 (P.12-2-72)
(1)コ 注目すべき種の予測時期について、「主に繁殖期を考慮した予測を行うことについて評価書に記載した」としているが、繁殖期をどのように考慮して予測したかが記載されておらず、また、出産・育児期については予測・評価されていない。→①④予測にあたり、繁殖期には、交尾期~出産・育児期、放仔時期、つがい形成期、巣外育雛期等を含むことを記載しました。(p.6-19-2-101 参照)また、繁殖に対する影響については、事後調査で対応する旨を記載しました。(p.8-13、14、17~21 参照)

(2) アジサシ類については、繁殖状況に変化が生じる可能性があることから、同種に対する環境保全措置として、繁殖時期に平島・長島への上陸を極力避けるよう周知に努めるとしているが、「周知」がどの程度の実効性を持つか不明である。→③周知を行う項目については、工事関係者等が環境保全措置を理解し実施するよう十分に調整を行い、周知を徹底します。また、立ち入り制限距離が分かりやすいように該当距離をロープや海上ブイの設置により示す旨を記載しました。(p.6-19-2-263、264 参照)

(3) アジサシとシロチドリの生息地に対する直接的影響の予測について、工事の実施により両種の生息地の一部が消失するが、生息地と同様の環境(安部崎~バン崎間)が存在すること等から、生息地に生じる変化は小さいと予測しているが、両種が同様な生息地へ移動すること、移動した場合の移動先での生態系に対する予測・評価を行う必要がある。→②平成24 年度の5~8 月に行われた調査で、アジサシ類は安部崎から天仁屋崎間、シロチドリは安部崎からバン崎間の範囲において、採餌や休息が確認されていることを記載しました。(p.6-19-2-122、125、p.6-19-2-132、134 参照)これらの移動先における生態系に対する影響について記載しました。(p.6-19-2-174 参照)

https://www.env.go.jp/press/files/jp/110615.pdf 環境省レッドリスト
https://www.env.go.jp/nature/yasei/raptores/protection/guide_h2603-1.pdf 環境省 コアジサシ繁殖地の保全・配慮指針

 

*1:私は委員をやめておりますので,現状についての詳細は存じません