洞窟性コウモリの住処である防空壕は守るべきか

 つい先日、鹿児島県の戦争中に作られた地下壕で、不幸な事故があった。そのため、「戦争中に作られた地下壕」の安全性の問題がニュース等で取り上げられ、閉塞を含む緊急な対策の必要性が述べられているらしい。
 ところが、生態学者の間では、「戦争中に作られた地下壕」は洞窟性コウモリの貴重なねぐらとなっている場合があり、(1)閉塞される地下壕が、コウモリのねぐらとなっている場合、コウモリの個体群に重大な影響を与えることが容易に予測できるという。哺乳類学会では以下のような総会決議があげられたという。「日本哺乳類学会2003年度大会総会(2004)特殊地下壕に生息する洞窟性コウモリ類保護のためのバットゲート設置に関する要望書.哺乳類科学,44(2):201-202」
 私も哺乳類学会員だが、去年総会を欠席し、知らなかった。適切なゲートの設置(縦柵より横柵がよいらしい)などで、人の安全とコウモリの保護を両立することができるという。
 そこで私は以下の質問を生態学者のmailing listであるjeconetに投書した。
「コウモリについては詳しくないので、初歩的質問をお許しください。防空壕は人工構築物ですよね。もともと、これらのコウモリはどこに住んでいたのでしょうか?また、その住処および個体数は減ってきているのでしょうか?防空壕を封鎖することによって影響を受けるコウモリのうち、どの程度、絶滅危惧種または個体群が含まれているのでしょうか?
 哺乳類学会のレッドデータブックを5分でざっと見てみましたが,絶滅危惧種は樹洞性の種と島嶼性の種がほとんどです。」(4/12)
 「私が教えていただきたいのは、防空壕を利用しているコウモリのほとんどがもしも普通種(あるいは絶滅の恐れがない)で,防空壕が人工構築物ならば,それを維持する必要が本当にあるのかということです。 それなりに防空壕を利用している希少種もいるらしいことは,○○さんの説明から伺われました。しかし、普通種でも同じようにその人工的な生息地を保護すべきなのでしょうか?絶滅危惧種も多く含まれ、しかも本来の生息場所が失われているという認識なら,里山とおなじでしょうが、防空壕は今は人間が使っていなくて,しかも危険なものです。」(4/13)
 「たとえば、コウモリの洞窟内の個体群サイズはときに、数百から数万に及ぶ。たった1個の洞窟を消滅させても、地域個体群全体に影響を及ぼす恐れがある」ということは、そのような洞窟が少数しかないということか?絶滅リスクでは、失われる個体数よりも、残った個体数と減少率が重要。絶滅危惧種はそのように判定されている。
「たとえば、キクガシラコウモリは毎年1頭しか出産しない。その潜在的な増加率は低い(ただし寿命は長い)」寿命が長いなら、潜在的増加率が低いかどうかはわからない。成熟年齢にもよる。実は、調査研究が進んでいないから、減少しているかどうかよくわからないという。
 さらに、「絶滅危惧種指定の有無は、あくまで多くある尺度のうちの一つであり、研究者間でも、かなり意見の相違がある」という。また、「奄美大島の大多数の絶滅危惧種や固有種は、島の人たちにとっては、ごくあたりまえの、そこに今も昔もいた生き物たちである」という。
 私は(IUCNもある程度はそうだが)、絶滅危惧種は客観的に絶滅リスクを評価して判断すべきだと思う。指定されたという結果だけでなく、生態学者としてはその根拠を見て判断すべきである。普通種でも絶滅危惧種に指定されたら守るべきだと、専門家として私は言うつもりはない。
 それと関係するが、単に生息地面積が狭いだけで(島嶼性の固有種ならある程度当然です)絶滅危惧種に指定するのが妥当とは、私は思わない。この点は、IUCN判定基準では、機械的に適用すれば指定されることがありえる。
 これらの意見だけでは、本当に防空壕を守らなくてはいけないか、私には判断できない。せめて、大まかな自然増加率とか、生息している洞窟の数が最低10以上あるとか、いえないものだろうか?