研究者による野生動物の投棄

 先月発行された「さんご礁学会ニュースレター37号」に、横浜国大COEフェローだった大久保奈弥さん(現京大フィールド研、学振PD)が寄稿している。短い間だったが、わがCOEで大変活発に活躍していただいた。寄稿によれば、彼女が研究をする上で一番大事にしているのは、「実験で利用したサンゴを無駄死にさせない=データとして公表する」ことだという。
 たしかに、研究者が野生生物を用いてとったデータを埋もれされるのは、漁業者が獲った魚を投棄するのと同じで、野生生物を無駄死にさせることである。非致死的な方法で獲ったデータだからよいとは思わない。漁業者の魚の投棄を批判する前に、研究者は自分のデータの投棄を戒めるべきである。その罪は、むしろ研究者の方が大きいだろう。資源としての魚の代替品はまだあるが、データは知的財産であり、代替品はないし、ほかの人がまねしても同じ価値にはならないのだから。
 私が屋久島で研究をした際にも、仲間の哺乳類学者にそういう人物がいた。何千万円も国税を投入して実施した基礎調査の結果が、いまだに公表されない。これは上記の観点から見れば投棄そのものである。とうとう私は、彼に、論文を書くまでは絶交すると宣言した。そのあとさらに1年経ったが、いまだに論文を書いたという報告はない。学会発表はしているが、原著論文にしなければ、投棄と同じである。
 しかし、そのデータは貴重である。大変残念なことである。