8.13 公開講演会のお礼

Date: Thu, 14 Aug 2008 11:34:12 +0900
牧野光琢様 生態リスクCOE関係者 海センター運営委員 の皆様
 昨日は夏休み中にも係らず、貴重なお話をありがとうございました。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/080813COE.html
 30名近くの参加者に恵まれ、活発な議論ができました。参加者の皆様にもお礼申し上げます。
 当日紹介された水産総研の中間報告(概要、全文)は下記サイトから落手できます。
http://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr20/200731-2/
 その中で、以下の部分に私は注目しました。
「・・・ゆるやかな資源回復方針では、急速な資源回復方針に比べて、資源が回復しないリスクや、資源が現状より低下してしまうリスクが高まる。他方、漁業経営が悪化するリスクは、多くの場合、急速な資源回復方針の方が高くなるであろう。よって回復が必要な資源に対しては、透明性と一貫性を高めるため、TAC 制度*1と資源回復計画における回復シナリオや諸回復施策との連携が検討されるべきである。なお、現在一部の漁業・魚種において資源水準(および潜在的漁獲金額)と資本規模(潜在的漁獲圧)の間にギャップが存在しているが、このような場合には資源悪化・経営悪化のリスクを誰がどこまで負担するのか、という問題が生じる。さらに、資本規模を縮小するために減船措置や許可枠削減などを実施する場合には、その経済的負担を誰が負うのか、という論点が存在する。これらは価値観や公平に関わる論点であり、本来国民の選択に服するものであって、科学的に一意に決定できるものではない。よって本報告では、2.4において3 つの政策選択肢を提示する。」
 つまり、一意的な価値観に基づく報告ではないから、3つの(ある意味では極端な)シナリオを検討したと言うスタイルです。
 EU諸国では、「構造政策(漁業者の公正な生活水準を維持しつつ漁業の合理的発展を目指す補助金政策)」が行われたと言うことですが、原油高騰、一斉休漁から、日本でも漁業者に補助金が支払われるようですが、上記のEUのような視点があるのかどうか、支援する漁業者に対する説明責任がどの程度問われているのかが重要です。補助金構造改革の機会を奪うような事態になるようではいけません。
 上記報告書では、例えば以下のように書かれています。

なお、このように資源変動に由来する漁業経営リスクの一部を政府が公費で補償する場合には、その科学的・客観的判断基準とするためにも、生産者・加工流通業者に対して十分な説明責任と経営データ提供義務が設定される必要がある。

 私が最後に指摘したように、現在の日本の漁業には、中国富裕層を初めとする外国での需要高騰による「買い負け」、原油高による「一斉休漁」、そして旧態依然たる早い者勝ち(オリンピック方式)のTAC制度による資源管理の失敗という3つの要素があります。しかし、本来資源管理の失敗が原因で招いた困窮を買い負けや原油高のせいにしているような漁業があるように思います。一般論としての中間報告の作業だけでなく、具体的事例において困窮の原因を解明する作業を並行して行うことが重要でしょう。

*1:漁獲可能量、総漁獲量を規制することで乱獲を防ぐ制度。国連海洋法条約により排他的経済水域内の水産資源を利用する沿岸国に義務付けられている