原油高騰に伴う漁業者への直接補填について

Date: Fri, 15 Aug 2008 17:57:41 +0900
 記事ありがとうございます。そうか、朝日新聞の8月10日とつい最近の記事だったのですね。二項対立でなく、3人いたとは面白い。
 「省燃油実証事業」について、水産庁出身の小松正之さんは「これで当座をしのいでも赤字補填に使われる恐れがあり、効果は薄い。税金は漁業の構造改革と再生に使われるペきだ」。築地マグロ中卸業の生田與克さんは「7月の一斉休漁は、チャンスだと思った。・・・だが、漁業者が直接補填を求めたのは短絡的だった.政府がそれを認めたら、燃料を使う産業はみな同じことを要求するのではないか。だから実現しないと思っていた」と述べていますね。双方とも、漁業者への直接補填に批判的です。
 それに対して、全漁連の宮原邦之さんは「燃油価格の高騰は05年から漁業経営を直撃している。」「漁業はエネルギーヘの依存度が最も高い産業だ。経費に占める燃油費の割合は50%近くと、もはや生き死にの問題であり、他の産業とは苦境の度合いが異なる。」と述べています。
 温室効果ガス削減が迫られている昨今、漁業がそんなに石油に依存しているならば、漁業は総攻撃を受けるでしょう。食品の輸送負荷を考慮したフードマイレージと言う概念がありますが、水産物は劣等生ということになります。勝川俊雄さんのブログhttp://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2008/07/post_376.htmlにあるように、豪州ではITQ制度があり、業界からも燃油補助金要求が出てこないと言うのは、構造改革が必要と言う意味でしょう。一斉休漁でどれだけ費用と漁獲量を減らしたかがわかれば、日本でもある程度工夫ができたことがわかるかもしれません。抜け駆けしない結束力があれば、管理に有効に働きえるはずです。
 省エネに1割努力すれば9割を補填すると言いますが*1、たとえば操業日数を1割減らしても、漁獲量が1割減るとは限りません。多くの魚種では、漁期初めの漁獲量が多く、終わりでは少なくなるでしょう。漁場にいる魚が減るからです。自分だけが休漁すれば別だが、一斉休漁なら漁獲量はそれほど減らないかもしれません。その場合、漁獲量はそれほど減らさずに補助金だけを得ることになりかねません。宮原さんも「資源の量に見合った・・・漁船数にすることが必要」と述べ、減船の必要性を認めています。補助金を使って減船を促すならば理解できます。しかし、借金漬けでやめられないから安易に減船・廃業できないと述べていますから、補助金は減船と構造改革を遅らせ、多すぎる船による乱獲を続けることに手を貸すことになりかねません。
 「漁民の手取りを増やしたい」という見出しは記者がつけたものかもしれませんが、当事者として国民の理解が得られる表現とは思いません。
 この点では、小松さんが指摘している「北欧見習い資源守る政策を」と生田さんの「サンマやアジ、サバなど、日本の近海でとれる魚はまだいっぱいある。その時々にとれる魚を、工夫して食ペていけばいい。」というのは正論です(サバは乱獲で減ってしまったが)。生田さんの話は直接原油高と直接補填政策への対案とはいえませんが、水産業と市場の構造改革が迫られている現代に、一つのアイデアを提案していると言えます。
 この、生田さんのような話と結びついた水産業のあり方を考えていただければ、ありがたいです。