世界水産学会議 二つの大きな新たな流れ

Date: Sat, 25 Oct 2008 08:51:28 +0900
皆様
 4年前から準備していた世界水産学会議が終わりました。大会実行委員会、プログラム親委員会の皆様はずっとかかり切りだったと思います。本当にご苦労様でした。【】
 私個人としては、この会議で二つの大きな流れを感じました。
 一つは水産資源学と生態学の融合です。主題であるFisheries for Global Welfare and Environmental Conservationに見られるように、水産資源は多様な自然の恵みの一つであり、漁業は水産資源を利用することで海洋生態系を日常的に利用・監視する重要な役割を果たしていることが認識され、総合的に海を持続可能に利用しようという視点が定着しつつあると思いました。
 生態学者と水産学者の交流も重視されました。Census of Marine Life(CoML)のMeryl WilliamsはMarine ecosystem services and fishing: agreements and disagreements between fisheries scientists and ecologistsと題して講演し、故Ransom MyersやBoris Wormらの極端な上位捕食者激減論に対しては、資源学者からの批判が多いことを紹介しました。Myersらの活動はCoMLの重要な成果の一つでしたから、CoMLの彼女がこの主張を披露したことは大きな意味があると思います。NatureやNewsweekには上記生態学者の主張ばかりが載りますが、水産学者もNarrativeであれと彼女は言っていました。
 私は4年前の世界水産学会議で Q3-1. Food web constraints to getting more fish and reconciling fisheries with conservationのサブセッションリーダーを務めましたが、上位捕食者でなく下位栄養段階の魚を食べれば、漁獲量を増やすことができると主張しました。クラゲも食べることができるはずです。カタクチイワシを利用しなかったのは需給関係の問題です。その意味では、Daniel Paulyの平均栄養段階という指標も、乱獲の指標とは限らず、イワシの漁獲量に大きく左右されます。
 もう一つは社会経済的取り組みの重要性です。机上論ではなく実践的研究のためには、ITQ(漁獲割当量の取引制度)のような仕組みや、意思決定と相互監視を円滑に進めるための共同体ベースの漁業管理(Community-based management)が重要です。残念ながら基調講演に来られなかったRayHilbornもProceedings論文でそのことを強調していました。数名の外国人を連れて日本の漁協を訪問しましたが、日本の漁業制度を理解してもらうことも重要と思いました。生態系サービスの一部として水産資源を利用する漁業者は、海を利用し監視する重要な役割を果たすことができます。水俣病はもとよりTBT汚染など、海の異変にいち早く気づいたのは漁業者です。今後は漁業者だけでなく、消費者、市民、環境団体も含めた合意のもとで、漁業を進めることが重視されるでしょう。
 今後ともよろしくお願いします。