櫻本和美さんの「脱MSY」の主張について(続き)

Date: Wed, 15 Jun 2016 09:28:34 +0900
 【削除2016.6.17 復活2016・7・19】
【水産経済新聞2016.6.10にも紹介された櫻本和美さんのMSY批判の講演会の配布資料がFacebookに無断掲載された件ですが】投稿中または今後論文に投稿予定の図表がある場合、これは大変なことになります。こんなことでは、学会発表やこのような公開セミナーの場で自由な研究発表ができなくなります。おそらく、無断転載禁止とこのような行事では明記するようになるのでしょうね。性善説が成り立たない、世知辛い世の中です。【すでに公開された内容は、学術雑誌には投稿できない規定です。他人の非公開の場での発表を勝手に公開するのはルール違反です。それは学位論文公聴会などでも同じことです。】
Date: Wed, 15 Jun 2016 09:45:34 +0900
 【削除2016.6.17】
 【「漁獲規制を行っても、親漁量が回復しない場合もある」という指摘について。】マイワシは私もそう思います。以前、マサバの論文を書いた時も、禁漁しても減る時期があるグラフを書きました【Matsuda et al. 1992、松田「環境生態学序説」。しかし、このとき採用した漁獲後資源量一定策は環境変動を考慮したMSY理論といえます。それは密度効果があるから現在あまり採用されないのではなく、資源量推定誤差にきわめてもろい方策だからです】。
 さて、改めて上記櫻本さんのスライド【非公開。当日参加者に配布】について
1)密度依存性を前提とすることとMSYの妥当性が同義 という点は、私は同意しません
 私は密度依存性が検出できない場合でも(検出できている場合も多々あります)、種間関係を通じてそれが実現している(たとえば被食者に密度効果があり、捕食者にない【)場合】でも、それは密度効果です。
 再生産関係の密度効果を前提としていても、私はMSYを資源管理の参照指標としては用いないほうが良いといっています。その理由は

  • 不確実性、非定常性、複雑性(種間関係)がある中で、種別のMSYという概念は成り立たないし、複数種の総漁獲高を最大にする解が多種共存を保証するとも言えない。【Matsuda and Abrams 2006,2008=私の第4回世界水産学会議の招待講演】
  • 実効的に目標資源量を設け、それでフィードバック管理をすればよい。(TACは設定できる。ただし、種間関係があるときには、対象魚種の資源量だけのフィードバックは危険であるとも言っています【Matsuda and Abrams 2013】)
  • そもそも、漁獲物は生態系サービスの一部であり、漁獲高だけを最大にするMSYでなく、生態系サービス全体を最大にすべきである。【Matsuda et al. 2008=私の第5回世界水産学会議でのキーノート講演】
  • MSY理論は密度効果を前提にしている という点は同意します。しかし、これは密度効果を認めたらMSY理論をとらねばならないという意味にはなりません。 

2)そして、密度効果は必ずしも検出できないが、存在する と私は思っています。
 しかし、スライドだけを拝見する限り、主な違いはそこだけです。資源管理が必要ということは、むしろスライドに明記されています。TACが不要とも書いていません。

文献
・松田裕之(2000)環境生態学序説:持続可能な漁業,生物多様性保全,生態系管理,環境影響評価の科学,共立出版 211頁
・Matsuda H, Kishida T, Kidachi, T (1992) Optimal harvesting policy for chub mackerel in Japan under a fluctuating environment. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Science 49:1796-1800.
・Matsuda H, Abrams PA (2006) Maximal yields from multi-species fisheries systems: rules for systems with multiple trophic levels. Ecol Appl 16:225-237
・Matsuda H, Abrams PA (2008) Can we say goodbye to the maximum sustainable yield theory? Reflections on trophic level fishing in reconciling fisheries with conservation. in Nielsen JL, Dodson JJ, Friedland K, Hamon TR, Musick J, Verspoor E (eds) Reconciling fisheries with conservation: proceedings of the Fourth World Fisheries Congress. American Fisheries Society, Symposium 49, Bethesda, Maryland 737-744
・Matsuda H, Makino M, Kotani K (2008) Optimal fishing policies that maximize sustainable ecosystem services . (K. Tsukamoto, T. Kawamura, T. Takeuchi, T. D. Beard, Jr. and M. J. Kaiser, eds.) Fisheries for Global Welfare and Environment, 5th World Fisheries Congress 2008,Terrapub, Tokyo 359-369:
・Matsuda H, Abrams PA (2013/11) Is feedback control effective for ecosystem-based fisheries management?. J Theor Biol 339:122-128, DOI:10.1016/j.jtbi.2013.06.005