9.14朝日新聞社説

Date: Sun, 14 Sep 2008 17:13:08 +0900
 阿蘇熊本より松田裕之です。
 今朝の朝日新聞の社説「魚と生態系−海を空っぽにするな」ですが、論理構成としては、 
A 世界の水産資源の枯渇を説き、 
B ノルウェーなどで一定成功している個別漁獲割当量制度(さらにNZなどで導入されている割当量の売買制度)の有効性を説き 
C 知床などで世界に認知された日本型の自主管理漁業の有効性を説いています。 
 日本経済調査協議会がまとめた水産業改革高木委員会緊急提言「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」では、主にAとBの主張が貫かれています。(Aについては、「日本周辺水域の漁業資源は悪化が進み、有用水産資源の半数以上が低位水準となっている」と日本周辺に限っています)むしろCの意義については否定的で、改革の必要性を説いています。
 BとCについては、水産総研センターの「我が国における総合的な水産資源・漁業の管理」(中間報告)にかなり近い内容です。ただし、【この中間報告では】Aについてはあまり言及がなく、BよりCを重視しているように見えます。
 私は沖合漁業についてはBの必要性を説き、沿岸漁業ではCの重要性も説いています。しかし、【朝日の社説と】明確に異なるのは、Aの認識です。たしかに8割ほどの魚種がこれ以上獲れないか乱獲状態にあり、その管理の必要性は論を待ちませんが、海の資源量の大半を占める低栄養段階の魚種については、近年のサンマやカタクチイワシに代表されるように、まだ漁獲量を持続的に増やすことが可能です。世界から魚が消えるというのは、青魚をほとんど食べないアングロサクソンたちにとっては実感でしょうが、南米ではカタクチイワシやマイワシの漁獲量が全体の大半を占めています。(FAOのTHE STATE OF WORLD FISHERIES AND AQUACULTURE 2006(ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/009/a0699e/a0699e.pdf)]の31ページ図18のSoutheastern Pacificをご覧ください。漁獲量が減っている30ページのNorthwest Atlanticと好対照なことがわかるでしょう)。
 しかし、タイトルはともかく、結論として、B(欧米的管理)とC(日本型管理)をともに重視している点で、この社説は評価できます。そのためには、社説にはありませんが、日本型漁業の問題点を徹底的に洗い出し、改革することも必要です(この点は、上記「中間報告」に触れています)。これは、我々が取り組むべき課題だと思います。

Date: Sun, 14 Sep 2008 17:02:33 +0900
 社会が採るべき対策の妥当性と、科学的な現状認識は区別すべきです。ここにも、我々生態リスクCOEが重視する科学的リテラシーがあります。
 逆に言えば、科学的にいくら正しくても、社会提言が不適切であったり、結果として妥当な社会提言をけなすだけでは、妥当とはいえません。この点が【】重要な点であると思っています。報道は、簡単な論拠から明確な主張を導きたがります。そのために論拠が科学的に不適切になることが多々あります。その論拠が独走して不適当な社会的対策をもたらすこともあるでしょう。そのような「歪み」があるならば、やはり、科学的に妥当な見解をできるだけわかりやすく語ることが大切でしょう。社会は論拠よりも結論を見る傾向にありますから、社会的に妥当な対策と組み合わせて語ることが重要と思います。