地域環境JSTでの議論

http://blog.goo.ne.jp/chiiki-kankyo-jst/から私の発言を転載
Date: Thu, 11 Dec 2008 10:53:02 +0900

学会がお目付役・ご意見番の役割を演じなくてはならないこともあるでしょう。
・・・釘を刺すだけでも問題は解決しないはずです。「なかに入っていって一緒に考える」人はそれほど多くないかもしれません。

 ご意見番というのは解を示さねばなりません。釘を刺すだけでは、たしかにいけませんね。どこまでなら当事者たちが納得するかを見ながらいわないといけません。知床では「新たな漁業規制はしない」という環境省と北海道の公文書(いまだに科学委員会に配布しない)とIUCNの「海域の保全水準を高めること」の両者を満たす解が必要になりました。そこからでてきたのが漁業者の自主規制強化です。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/Shiretoko.html#050223 
最初は手探りで、そこまで意識していなかったのですが、結果として、知床から日本の沿岸漁業の自主管理の有効性を世界に説明する機会が得られました。

二つ目は、「生態系にはできるだけ人手を加えるべきでない」という信念が染みついている人がまだまだいる、ということです。

 今月出版した拙著「なぜ生態系を守るのか」(NTT出版)の表紙には、「地球は地球のもの」と私が言っているかに見える絵がど真ん中にあります。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/NTT.html
 私の学生たちは、私がこんなことを言うとは考えられない、このまま出してよかったのかといっています(あえてデザイナーにお願いしませんでした・・・)。
 実は知床世界「自然」遺産の管理計画でもこの言葉(できる限り人手をかけない)は残っています。
 生態学会生態系管理委員会では、下記の表現をとりました。生態系自身に回復力Resilienceがあるとし、それを活用するという原則です(Passive restoration)。

http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/EMCreport05j.html#P13
13. 自然の回復力を活かし、人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則)
 自然再生事業は、できるだけ自然が持つ回復力を活かすように計画を立てるべきである。生態系の維持機構に対する理解が足りないと、しばしば無用な手を加え、自然の回復力をますます失う結果になる。
 積極的に環境を大幅に改変する以前に、回復を阻害している要因を除去することで再生が図れないか、検討すべきである。また積極的な環境改変を行う場合でも、短期間で大規模な事業を行うよりも、長期にわたり、小規模な再生事業を継続する方が、好ましい結果を生む場合もある。生態系の回復を妨げている要因を科学的に見極め、適正な規模の事業を行うべきである。

 そういいながら、世界自然遺産の最深部(知床岬)で昨年から鹿大量捕獲を試みていますが。それは以下の方針

http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/EMCreport05j.html#P18
18. 不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる
 自然再生事業を計画するプロセスでは、次の二つの場面において、予防原則を用いるべきである。第一に、自然再生事業をせずに放置した場合の変化が不可逆であると判断されるならば、事業の有効性の科学的根拠が不十分であることを理由にその実施を遅らせてはならない。第二に・・・

 いずれにしても、それぞれの取り組みから学びあうことが大切で、押し付けたり、違いを強調するのはうまくいかないでしょう。気にせずに批判しあえるようになるまでに、信頼関係を築くことが大切です。地域環境JSTが各地の在野知を集め、研究者の変容プロセスを促すものだとすれば、それぞれの担い手の処方箋が異なるところはたくさんあるはずです。いきなりどれが正しいかを論じても無意味でしょう。自分のやり方に信念を持ち、互いに尊重しあいながら、学ぶべきところを学んでいけばよいのだと思います。その意味では、外野からあせって原則を押し付けると「土足で踏み込む」ことになりかねません。レジデント型研究者といえども、地元以外では訪問型と同じだと思います。

 今、矢原さんが自然再生ハンドブックを作っていますが、その辺が難しいところのようです。彼によると、生物多様性条約の指標作りなどの国際機関で活躍している研究者は、ほとんど自分の現場を持っていないような人が多いそうです。

Date: Thu, 11 Dec 2008 12:26:03 +0900
 規制改革会議の答申とその議論(水産関係)を見る限り、水産庁はただの抵抗勢力で、小泉路線に政治的に負けていますね。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_06.pdf
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_014.pdf

 水産総研センター(牧野光琢さんら)がまとめた「中間報告」はそれに答えるものです。朝日新聞がこの内容を9.14社説で実質的に支持したことで、風向きが変わったと期待しています。http://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr20/200731-2/

 大企業が地元の漁業者と組んでうまくやっているところもあります。問題はうまくいかなくなったときです。企業の論理でリストラ(漁場閉鎖?)でよいかといえば、それではすませたくない。漁村でなくても、地方都市などでは実際に1企業の撤退が大問題になることはよくあると思います。
 実例があるとおり、今でも地元と信頼関係を作り、大企業は沿岸に参入できています。その経験と信用のある企業にとっては、完全な自由化がなくても可能です。
 漁業者だけでなく、ダイバーや遊漁との関係を整理したいですね。

Date: Thu, 11 Dec 2008 16:03:49 +0900

予防原則の定義は多様です。我々のCOEではあえて予防的順応的管理を提案し、「欧州の予防原則、米国の順応的管理の対立を超える」と申請書に書きましたが、「もともとそんな対立はない(新しくない)」という異論は外国の友人からも来ました。
 要は中身です。予防原則を禁漁側にのみ使う相手に対しては、「予防原則より順応的管理を」という主張と表現は間違っていません。定義が多様なものは、言葉だけで合意するのではなく、相手がどういう意味で使っているかを互いに理解することが大切です。
 海洋保護区も同様です。全面禁漁区という意味で使う人がいて、拒否反応がありましたが、国際的にこの言葉を使わないで孤立するより、定義を多様に使うほうが得策と思います。