食品中の放射性物質に係る基準値の設定 への意見

Date: Sun, 22 Jan 2012 16:30:40 +0900
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改定案)復興のめどがつくまで暫定基準値の改定を延期すべきです。具体的には「経過措置の文言にある期日」(H24.4など)を「復興のめどがつくまで当面の間」とし、適用食品のiはそのまま、iiは「i以外の食品」とすべきです。
理由)福島原発事故を動機としながら、今なお事故が収束せず、避難し続け、農漁業が回復できない壊滅的な事態において、事故収束後の「平常時」と同じ基準は適用できません。事故前と同じ手厚い行政ができない現実に、この報告書並びに経緯が何も触れていないことは残念です。それは、結果として被災農漁家に一層の追い討ちをかけるものです。
 現在の暫定基準値でも、実際に内部被曝量が1mSv/年を超えた事例は知られていません。朝日新聞1月19日付の報道では、福島県の被験者の中央値は0.02mSvであり、最大値でも0.1mSvでした。平常時ならば基準値ぎりぎりの食品を食べ続けても安全であるという前提で基準値を決めるべきでしょうが、現状では、実際の内部被曝量の現実を見据え、今以上の制限をかけるべきではありません。
 現在でも、福島第一原発近傍では農漁業ができない状況が続き、近隣県も含めた影響がでています。農漁業者は原発事故の加害者ではなく、被害者です。今必要なことは、効果的な措置を行って消費者の健康と農漁業者の経済活動を両立させるための措置です。前者に大きな現実の問題がありません。新基準案はこれに逆行するものです。これを適用した場合、計画的避難区域よりずっと広大な区域で、農漁業活動を制限された「新たな被災者」を政治的に作り出すことになるでしょう。それは行政による人災であり、ICRPの3原則のうちの最適化原則に反するものです。日本学術会議会長談話にもあるとおり、今回の原発事故の対処はICRPの3原則に沿ったものとすべきです。
 震災後の日本人に最も必要なものは絆の復活です。事故直後から、あえて福島産の農産物を買おうとする運動も起きました。当時懸念されたよりも、実際の内部被曝量はずっと低いことがわかりました。一部の消費者は、被災地の食品を買うことに価値を見出しています。基準値を引き下げることは、農水省が掲げる「食べて応援する」思いを否定することです。これは、害よりも益が多い場合に被曝を受容するというICRPの公正化原則に反する行為であり、被災農漁家と消費者を結ぶ絆を断ちきる行為です。
 ただし、あくまで安心を求める消費者もいます。経過措置の間、新基準値を超える食品の放射性物質濃度を表示し、消費者に選択の自由を与えるべきです。それが、消費者の安心に繋がるでしょう。
 賠償金を払えば新たな被災者にはならないと思われるかもしれません。しかし、生業を否定された不幸はお金では償われません。お金の問題ではないのです。また、農漁家が補償されるとしても、加工流通業者への賠償はありません。生産者から消費者への社会的リンクが切れることに変わりはありません。現在の内部被曝線量をみれば、その必要はありません。
 暫定基準値が最適な値だったとは限りません。より緩和しても、食品による内部被曝量が1mSv/年を超える消費者は極めてまれでしょう。しかし、線量限度適用原則により、一度決めた基準を緩和することは得策ではないでしょう。
 日本農学会が出したテクニカルリコメンデーションは、「流通段階での検査等で安全性が確認された現在、依然として過度に事故地周辺の農産物を避けるのは公正な市場を損ねることになりかねない」と指摘し、さらに「残念ながら、ときに、他地域の地方自治体と住民までが『風評加害者』となり、放射能汚染は、差別のような日本人の心の汚染にまで広がっているという指摘さえある」と述べています。今必要なのは、現実の被災状況を見据えた冷静な判断です。
 最後に、この答申とは直接関係ありませんが、福島県民および原発作業員の甲状腺癌の検査、患者への保険などは手厚くすべきだと思います。学術会議会長談話にあるとおり、原発事故との因果関係はほとんどわからないでしょうが、被災民に少しでも安心を与えることができるでしょう。
 データなどの根拠は下記サイトに載せます。よろしくご検討のほど、お願いします。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2011/radiationrisk.html