日経エコロジー論点争点で放射線リスク問題の対談

Date: Mon, 23 Jul 2012 09:41:42 +0900
 日経エコロジーの企画放射線食品リスクに関して、「大地を守る会」の戎谷さんと「論争」しました。その場での私の主張は下記の通りです。どこまで原稿に反映されるかはわかりません。
 対談してみて、大地を守る会が低線量食品を売る(という契約消費者の希望があり)一方で、福島の契約生産者を守るための商品も提供しているということでした。暫定基準値のころは、暫定基準値以下の食品を扱っていたと思います。

  1. 現行の基準値「100Bq/kg」の妥当性:平常時という認識ですべての食品が上限値の値でも1mSv/yrの摂取になるように基準値を決めたが、重篤事故が起きた後では平常時とみなすべきではない。実際の摂取量が1mSv/yr以下になることが重要。ICRPの考え方にのっとり、平常時と緊急時などを分けるべきであった。
  2. 農業や漁業などの生産者への影響:重篤な影響がある。漁業については、海だけでなく、北関東の内水面、遊漁への影響も心配される。あえて厳しい基準を設けたことは新たな人災とさえいえる。
  • 流通・小売業者が独自基準を定める動き:農水省通達はこれに否定的と受け取られた(自社の検査方法、検出限界を示さずに「ゼロを目指す」という不適切な表現が一部スーパーなどにあったことは問題である)、
  • 「安心」を与えることも重要であり、独自基準自体は消費者の選択の自由を与える。安全といわれても、我慢して食べ続ける人はストレスを感じる恐れがある。そのストレスのリスクのほうが大きい可能性がある。
  • 逆に、被災地の農漁家を支援したいという選択の自由もある。低いリスクを受け入れることで被災者を支援することは社会の利益となる。その機会を奪うことは公正化原則に反する。
  • 「大地を守る会」は独自基準を満たすものを売るのと同様、被災地を支援する商品も扱っている。高く評価したい(福島の契約農家のコメを買い続けた消費者は昨年6割弱に減ったそうだが、買い続けた消費者がいたことは貴重である)。水産物も同様の取り組みを期待する。
  1. 消費者に対する情報提供のあり方:情報を隠すのではなく、選択の自由が大切。しかし、放射性セシウムだけでなく、総合的な見方が必要。たとえばカリウム40の値も同時に示せば、セシウムにこだわる消費者は減るのではないか*1。今の内部被曝量は、自然放射線の被曝量どころか、その地域差、個人差より少ないレベルと推定される。
  • あたかも学会が二分されているような印象を与えているが、これは捕鯨論争と似ている。あえて問題を大きくすることで脱原発運動に利用しようとしているのだろう。あとになれば、それほど大きなリスクがないことがわかるだろう。*2
  • 報道も問題がある。所沢ダイオキシン騒動に似ている。今は少しの放射線でもあおっているが、やがてタブーになるだろう。(「大地を守る会」は当時埼玉産の農作物を売り続けた)
  • 私も御用学者と呼ばれているが*3、学者に圧力をかけて発言を変えさせようという脱原発派の姿勢が問題である(検討会の傍聴を求める際、ビデオ中継でなく同席を求めるのはそのためと考えられる)。圧力を受けて発言を変えるようでは、その学者の信頼性そのものが問われる。
  1. 現行の基準値はいつまで続けるべきか:平常時に戻れば、今の基準値でよいと思う。今はその基準を実施すべきではなかった(実施遅延を求めた)。
  • 少しのリスクでも避けたいという人はいるだろう。「大地を守る会」は生産者と消費者の絆を深める取り組みをしている。生産者の顔が見え、普段生産者に感謝しながら食物を食べていれば、少しのリスクのために生産者を捨てようと思う人は減るだろう。リスクが無視できるというより、少しのリスクを負うことで人を助けることができるという考え方が重要ではないか。結局、食の安全は生産者との絆によって維持されるともいえるだろう。

 対談とは関係ありませんが、下記の動画、たいへん参考になりました。
細野ひろみさん:放射性物質と食の安全を市民はどう捉えたか [要旨]
[動画]http://www.a.u-tokyo.ac.jp/rpjt/event/20120526.html

*1:COOP福島の陰膳による調査の結果、http://www.fukushima.coop/kagezen/2012.html。ただし、K-40の年間摂取量は0.4mSvと福島のCs-137よりけた違いに高く、ほとんど食品の摂取方法の違いには依存しないようです。http://trustrad.sixcore.jp/h19-21_sugiyama.html#accident

*2:7月9日-13日にオーストラリアで開催された国際サンゴ礁学会シンポジウムでは、基調講演でヘレン・マーシュ教授が辺野古問題も含めてジュゴンの政治利用にあからさまに言及していますhttp://www.coralcoe.org.au/icrs2012/Default.htm

*3:http://www47.atwiki.jp/goyo-gakusha/pages/125.html