リスク管理における社会的合意と科学者の役割

環境倫理研究会の皆様

松田です。神戸の研究会は盛り上がりました。

【第45回「科学技術社会論研究会」ワークショップ「リスクの社会的意味」 2005年4月23日(土)10:00-17:501.ワークショップの目的】

昨今、「リスク論」「リスクコミュニケーション」はある種のブームとなっている。しかしそのような傾向に対して、ある種の危惧がもたれている。それは環境に関するリスクや、GMOのリスクが「科学的なもの」としてのみ語られて、その社会的・政治的・経済的・文化的な意味が無視されてしまうことに対する危惧である。」

 これらの点は私なりに踏まえているつもりですが、以下の2件を紹介します。
 逆に、科学的なリスクの吟味が社会的・政治的判断に反映されない事態も避けてほしいと私は思います。BSE全頭検査を日本から見直し,その後に米国牛肉輸入を議論するというのは、その限りでは適切だと私は思います。

横浜国大 COE リスクマネジメント手続きの基本形(案)ようやく掲載をCOEリーダーから認められたので,下記サイトに一時的に置きます。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/COE/TMReportA.html目的、数値目標などの各段階で科学的手続きから社会的合意に投げ、その合意を元に管理計画の実現可能性を科学者が吟味し,実施しながら見直すという構図になっています。

日本生態学会生態系管理専門委員会 自然再生事業指針(案)先日大阪大会でフォーラムを行い,上記案よりさらに改訂した内容を近々掲載します。この中にも、「科学者の役割」として以下のように書きました。
 上記2点について、ご意見がありましたらお願いします。

2−5 科学的命題と価値観にもとづく判断
 自然再生に関連する諸問題の中には、科学的(客観的)に真偽が検証できる命題と、ある価値観に基づく判断が混在していることに注意すべきである。生物多様性が急速に失われていると言う現象は客観的に証明できる命題である。一方、自然と人間の関係を持続可能な関係に維持すべきであるという判断は特定の価値観に基づいており、客観的命題ではない。このような、持続可能性を目指すという価値観を前提として、その目的を達成するための方途や理念を客観的に追究する科学が保全生態学である。
 保全生態学が前提とする価値観については、必ずしも社会全体の合意を得ているわけではない。人間がどのような形で持続可能に自然を利用していくかについては、科学的に唯一の解を決めることはできず、合意形成というプロセスを通じて初めて、社会的な解決をはかることができる。このような合意形成のプロセスにおいて、特定の価値観に基づく目的が現実的に達成できるかどうか、その目的がより上位の目的と整合性があるかどうか、その目的を達成するにはどのような行為が必要か、などの問題については、科学的に検証することが可能である。このような問題を科学的に検証し、関係者に判断材料を提供し、合意形成を支援することが生態学の役割である。

書評 中西準子「環境リスク学−不安の海の羅針盤」エコノミスト10月19日号52頁