4月にはいり、水産庁で漁場保全課長の小松正之さんが水産総合研究センターに異動となった。去年はテレビ討論番組で議論したが、小松さんは国際捕鯨委員会IWCの長年における日本の顔として知られている。鯨害獣論、先住民生存捕鯨に対する政策など、意見が合わないこともあるが、強力な指導力のもとに一貫した基準で、漁業管理を実行しようという意志を持った人である。許容漁獲量制度をめぐっては、科学者が提言した生物学的許容漁獲量(ABC)と実際の漁獲可能量(TAC)の乖離を減らすために尽力してきた。
世界の反捕鯨団体は彼のことをまるでプロレスの悪役のように囃し立てる。ある意味では彼がいなければIWCでの反捕鯨団体も盛り上がりを欠いてしまうだろう。けれども、捕鯨に反対していれば環境を守れると思っている人々より、漁業者に対してはっきりと資源管理の必要性を論じる彼のほうが、はるかに日本の自然を守っているといえるだろう。少なくとも、この彼の功績を評価できないようでは、漁業の実態のことを考えていないということだろう。自分の意見にあわない者はすべて悪とみなしていても、問題は解決しない。自分の政敵を批判しても、味方には甘い人々に比べれば、彼の言動は一貫していて、痛快である。それだけ敵が多いことにはなるが、彼に期待する人々もまた、数多い。大事なことは、味方の意見だけを聞くようにならないこと。二項対立で色分けするのではなく、個々の課題についてはっきり意見をいうことだ。
アオギス放流問題も、彼だからこそ、単に水産振興ではない、東京湾再生を彼なりに考えていたのだろう。トドの管理を資源管理として取り組むという発想も、エゾシカ保護管理計画と共通するものである。トドだけでなく、漁業者も絶滅危惧であるという私の主張は、今夏の国際哺乳類学会IMC9でのIWC科学委員会前議長JudyZeh女史の基調講演にも共通している。
生物の多様性と同じく、人の価値観も多様である。彼は世界の水産業と自然保護を問い直す上で、水産庁におけるたいへん稀有な人材だ。ぜひ、今後とも、さまざまな国策決定の場面で活躍していただきたい。もちろん、私も言いたいことを言わせていただく。