読売新聞の知床世界遺産に関するIUCN評価書の公表は遺憾である

○○さま
 IUCNが2005年5月にユネスコに提出した知床世界遺産に関する評価書は、「限定配布文書」とされ、世界遺産委員会の審議が終了するまでは非公表とされています。その概要を環境省自然環境局と林野庁が5月31日に記者発表したときも、「限定配布文書」であることに十分留意し、コピーなどによる第3者への配布及び本報告書の内容に関する他言は控えるよう注意が書かれていました。我々知床世界遺産の科学委員会も同様です。
 ところが、読売新聞はこの評価書を入手し、聞くところによると、明日、評価書の概要を掲載すると予告しているそうです。
 あえてこれを新聞等で公表するとすれば、日本政府ならびにユネスコとの信義にかかわることであり、登録ならびにその後の取組みや合意形成にも大きな影響を与えかねません。読売新聞の今までの報道によれば、『評価書で「知床と北方領土は、将来的に“国境”をまたいだ保護区になる可能性がある」との見解を示していた』とあります。この「北方領土」及び「国境」の正確な記述は不明ですが、内容には外交問題に発展しそうなことが含まれているようです。したがって、公表しないという合同事務局の態度はよく理解できます。ところが、その最も肝心の部分(北方4島との関係)がすでに読売新聞紙上で報道され、今回は全文概要を掲載すると予告しているそうです。読売新聞が内々に入手したとしても、それを報道するのは新聞社としての良識を疑います。
 特に「国境」にかかわる記述があるとすれば、登録自身に影響を与えかねない事態です。結果を考えて信念をもって報道するならまだよいが、結果を考えず単に特ダネの商業価値に魅入られただけかもしれません。
 たしかに、読売新聞には登録を妨害して報道する権利があるかもしれませんが、我々にも、それに抗議する権利があるでしょう。明日報道するというなら、急いだほうがよいでしょう。