10.1箱根セミナー企画者の松田です

NRP自然再生研究会 意見・主張のページ2005.10.7に、我々が企画した10.1箱根市民セミナーが紹介されていました。参加、紹介ありがとうございます。
 一点だけ、知床世界遺産でのオオカミ導入問題について意見を申します。

結論から言うと、オオカミ再導入は生態学的な問題(生態学的な観点からその必要性は考えられる)ではなく、社会的な問題であり、3年間で実施されるエゾシカ管理事業の中では到底扱いきれないとの見解でした。オオカミ再導入はすぐに社会的な合意を得られる「実現可能性」のある選択肢とは言えず、代替的な措置を考えるのが賢明であるということです。しかし、「実現可能性」がなければ、明治時代以前の「健全な生態系」のなかで重要な位置づけで存在したオオカミを放置したまま議論の先送りをしていいのか、疑念を抱いてしまいます。時間の掛かる政策であるからこそ、今からはじめなくてはいけないのではないでしょうか?

  • 知床科学委員会のエゾシカWGでも、またそのほかの知床のさまざまな議論でも、オオカミ導入について議論をしていないわけではありません。ただ、現在の(今後数年間の)計画では検討しないことにしただけです。詳しくは松田公開書簡2005.7.1をご覧ください。

では、社会合意が得られるとして、オオカミを導入すれば問題が解決するかについては、かなり疑問です。それは、

  1. 沿海州ではオオカミが存在していても、個体数は大きく変動し、積雪が最大の制限要因(梶さんが講演で紹介)
  2. 屋久島ではもともとオオカミはいなかったが、現在のようなシカの大発生は知られていない。

 つまり、オオカミの存在は、今のところシカを管理する必要条件とも十分条件ともいえません。さらに、梶さんが紹介されたとおり

  • 知床における生存可能なオオカミは1〜2パックなので、オオカミの捕食はシカの数(1万頭以上)をコントロールできない。
  • 広域管理が必要(北海道全体にオオカミが分散する)
  • 公園外に出たオオカミの管理は誰が行なうか(アメリカ合衆国では土地所有者が銃殺を許可されており、ほとんど全てが銃を所持するガン社会)

という問題点があることは、議論している科学者の共通認識だと理解しています。
 しかし、オオカミを導入すれば、シカの行動に影響を与え、植生への影響を緩和する可能性はあります。
 また、オオカミ再導入論は、そもそもシカ管理のためではなく、生態系プロセス復元のために必要という認識だと思います。この点を支持する科学者もいます。けれども、シカ管理の手段として提唱するのは、現時点では私は疑問だと思います。