オオカミ再導入論について

Date: Fri, 21 Oct 2005 10:47:15 +0900
江成さま
ありがとうございました。ブログ掲載、大歓迎です.
 将来はともかく、今日のエゾシカ問題の解決策としてオオカミ再導入に期待することは無理があるという認識では、多くの人が一致していると思います。ですから、当面の管理計画の選択肢としては議論していません。しかし、さまざまな場所でオオカミ導入論が議論されています。江成さんのご意見は、世界遺産管理計画策定のためのワーキンググループの場でも議論すべきだという趣旨と思いましたので、その必要性が理解できませんでした。
 長期的にオオカミを再導入すべきかどうかについては、意見が分かれると思います。再導入できるとしても、それには条件がいるという点では一致しています。
 以前、東京湾に地域絶滅したと考えられるアオギスを再放流する動きがありましたが、外から生物を持ち込むことは外来生物の持込に当たるという理由でも強い異論がありました。アオギスの場合は、オオカミのように人間社会に新たな危害をもたらさないと考え、私はかつて存在していたアオギスを再放流することに反対しませんでした。もし本当に東京湾で絶滅していれば、かつ九州とは遺伝的交流のなかった個体群だとしても、かまわないと考えました。しかし、これにさえ異論がありました。(現実に準備されていたアオギス放流には、それ以外にも批判の理由が挙げられていましたが、ここでは触れません)。
 ですから、議論するのはよいですが、たとえ人とオオカミが共存できる条件が揃ったとしても、長期的にオオカミ再導入が正しいと考える科学者ばかりではない(むしろ、現実には少数である)ということを、まずご理解いただきたいと思います。
 私は何も永久に再導入すべきでないという主張をするつもりはありません。ご指摘どおり、北海道の人口がたとえば数万人程度になれば、再導入も可能かもしれません(私は、人口が減ることを必ずしも避けるべきこととは思っていません)。それには、オオカミがかつていたというだけでなく、未来の人間社会と生態系になぜオオカミが必要かという具体的な論拠が必要だと思います。そして、それが可能だとしても、それは社会の選択であり、上記のような反対論も存在するのです。
 いずれにしても、今からオオカミを再導入するために自分が何か手を打つべきだとか、行政が準備すべき段階だとは考えていません。したがって、「オオカミ再導入は日本のグランドデザイン、そして自然再生事業の中に明確に位置づけるべき課題」とは現時点では思っていません。
 しかし、皆さんがオオカミ再導入を望み、そのための科学的な問題点を吟味されることを否定するつもりは毛頭ありません。価値観には多様性が重要です。ただし、オオカミが日本の野外に流出してしまうリスクは現時点でも存在します。これは、たいへん恐ろしいことだと思っています。