東大海洋研シンポジウム「低水準期にある浮魚資源の管理」

Date: Fri, 11 Nov 2005 20:04:53 +1200
皆様、今日は東大海洋研シンポジウム「低水準期にある浮魚資源の管理」の総合討論で、活発に議論いただき、ありがとうございました。【】明日京都賞を受賞するアメリカの数理生物学者サイモン・レヴィン博士は、「持続不可能性」という本の中で8つの戒めを提案し、「信頼関係を築け」をその一つにあげています。信頼関係をあからさまに否定する中からは、建設的な議論も合意も管理も生まれません。
 加入量に対して親魚量と環境条件のどちらが大きく利いているかという議論はすでに過去のものだと思います。環境条件が大きいことはすでに考慮されており、同じ環境ならば親魚量が多いほうが加入も多いと仮定しているのであって、その場合でも加入管理の効果を確率的に示すことができます。泥棒がいつ入るかわからないから防犯は必要ないというのは暴論です。防犯はリスクを減らすのであって、安全を100%約束するものではありません。株式投資などで不通に行われているリスク管理を、一攫千金を身上とする漁業者が理解されないことは残念です。10年前ならともかく、現在では、我々科学者は唯一の未来を予測するような(不確実性を無視した)ことはしなくなってきつつあります。
 マイワシに管理は必要ない、TAC対象魚種からはずしてよいとも言っていましたが、増え始めたときには管理してもよいとも言っていました。また、マサバについては1992、1996年の卓越年級群を獲り尽くした反省から管理の必要性を漁業者も認めるようになったことがわかりました。結局は、マイワシとマサバの違いではなく、今減り続けているか増える兆しがあるかの違いであると思います。また、減少期にTAC対象種からはずし、増加期に含めるという虫のよいやり方は、国連海洋法条約の趣旨からみて論外であり、それによって外国漁船を締め出すことなどできないことは確認されたと思います。【】
 ただ、減り続けていく資源にABCあるいはTACを定めるにあたり、必ずしも資源回復もしくは現状維持を目指すように設定できないことも、今回のシンポジウムで理解されたと期待します。目標値が今より低い場合もあると私に指摘したのは櫻本和美さんだったと記憶しています。ただし、いくら減らしてもよいわけではありません。また、減らすときにも管理は必要です。また、同じ減らすにしても、加入のよい年に未成魚を残すなどの管理が資源量にも漁獲量にも中期的改善効果があることは、さまざまな研究や今までのABC検討会で示された数値実験結果で明らかだと思います。私はそれを「負け戦のしんがり」と表現しましたが、むしろ、増やすときより厳しく、管理の意義は重要であると言えるでしょう。
 また、いくらとっても増えるときは増え、獲らなくても減るときは減るというのは、私は疑問です。1990年代のマサバの失敗があるまでは、マサバでも同じことが言われていたと思います。マイワシはより回復力が強いと思いますが、資源の変動幅もずっと大きいと思います。
【】環境条件が加入率RPS(もしくは内的自然増加率r)でなく、加入量R(もしくは環境収容力K)を支配するという意見もありました。これは比較的すぐに検証できると思います。
 私は、環境は年変動だけでなく海域ごとに不均一であり、好適な年にはよい海域が多く、不適な年には少ないと考えます。そして、産卵場は資源量が多いほど広がるとすれば、産卵親魚量Sが多い年には加入量のばらつき(CV)は1/√Sに比例して小さくなり、親魚量が少ない年にはよい海域にたまたま産卵されれば加入が多いが、そうでなければ加入が激減する、つまり加入量のばらつきが大きいと考えられます。資源が少なくても加入の多い年があるからといっても、それは確率の問題かもしれません。渡邊良朗さんのいうウルメ型かニシン型かの違いは、そのどちらに適応しているかの違いかもしれません。これも、渡邊さんの調査研究である程度証拠がそろうものと期待しています。
 ○○さんは、最後にまだ研究者と漁業者の隔たりが大きいと仰っていましたが、私は結構楽観しています。15年前にしつこくマサバの資源管理を説いたときは霞ヶ関ももちろん漁業者も聞く耳を持たなかったが、今は増える期待のある資源の管理の必要性について、かなり理解が進んでいます。管理しないほうがよいというのなら、泥棒に警察は要りません。あとは、我々が減りつつある資源の適切な管理方策を提示することが重要です。それは十分可能だと思っています。